絆
郁美に張られた頬は、まだ若干赤みが残っている。眉間に深いシワを寄せ、声を荒らげる関谷の姿には、痛々しいほどの必死さが滲み出ていた。虚勢を張っているはずなのに、追い詰められているのは関谷の方に見える。
ここで言い争いをしても意味がない。
「あぁ……そっか……すまん……」
俺は刺激しないよう、できるだけ静かに言って、一歩だけ引き下がった。
しかし、関谷は引き下がらなかった。
荒い息を吐きながら、俺を見下ろすように睨みつけてくる。ただ、その眼差しからはさっきまでの威圧感が抜け落ちていて、どこか縋るような色が混じっていた。強く握り込まれた拳が、小さく震えているのが見える。
「とにかく……! お前がずっと昔から桜ちゃんの幼馴染で、俺よりも深い絆で結ばれてることくらい、俺だって分かってるよ……!」
吐き出すように言葉を重ねてくる。
その言葉の端々に滲んでいたのは、俺に対する露骨な劣等感と嫉妬心だった。
パンケーキ屋で「部外者は黙ってろ」と言い放った時の棘も、今思えば、そんな焦りの裏返しだったのだろう。
「でもな……俺だって、桜ちゃんを高校の入学式で一目見た時から、ずっと好きだったんだ。あの満開の桜の下で笑ってた姿を見た時から……ずっとだぞ!? 俺にとって、桜ちゃんはずっと手の届かない高嶺の花だったんだよ」
語気こそ荒いままだが、「高嶺の花」と口にした瞬間だけ、声がわずかに揺れた。
関谷の瞳には、熱っぽいほどの強い光が宿っていた。
きっとその目には、入学式の日の、桜吹雪の中で笑う桜が映っているのだろう。
「ずっと思い続けた高嶺の花と、やっとの思いで付き合えたんだ……! だから……頼むから、邪魔しないでくれ……」
最後の一言は、ほとんど絞り出すような声だった。
「……」
返す言葉が、すぐには見つからなかった。
ポップコーンの香ばしい匂いが漂う映画館のロビーで、重苦しい静寂が二人を包み込んでいた。すぐ近くでは、カップルの笑い声や、売店のスタッフが注文を復唱する明るい声が飛び交っている。それなのに、俺と関谷の周りだけ、音が一枚の膜に遮られたように遠く感じられた。列は少しずつ進んでいるはずなのに、足を動かす気にもならない。




