本気
表向きの穏やかな時間も束の間、楽しそうにモールを歩き回っているうちに、あっという間に映画の上映時間が近づいてきた。
俺たちは階上のシネマエリアへと移動した。薄暗くお洒落な照明が照らすロビーには、映画を待つ大勢の人々が集まっている。
「それじゃあ、二人はあそこのベンチで待ってて。俺たちポップコーンとドリンク買ってくるから」
郁美は一瞬「大丈夫……?」というように心配そうな視線を俺に向けたが、俺は郁美に軽く微笑んで大丈夫と合図した。
「じゃ、じゃあお願いね、達也くんと関谷くん!」
桜と郁美をロビーのソファへ座らせ、俺と関谷は二人で混み合う売店カウンターへと歩き出した。
香ばしいキャラメルと塩ポップコーンの甘い匂いが立ち込める列の最後尾に、男ふたりで並ぶ。桜たちの前では取り繕っていた関谷だったが、二人きりになった途端、その顔から一切の笑みが消える。
「……」
ポップコーンの香ばしい甘い匂いと、映画を待つ人々の浮かれた話し声が交錯する列の中で、俺たちの周りだけがまるで真空地帯のように冷え切っていた。
「……」
当然のように、重苦しく気まずい時間が流れていく。お互いに正面を見つめたまま、一言も口をきかない。
(……このまま黙って並んでるのもキツいな。俺から何か話しかけるべきなのか……?)
そんな考えが頭をよぎり、どう言葉を切り出すべきか迷っていた、その時だった。
それまで黙り込んでいた関谷が、ぽつりと小さな声を漏らした。
「……あのさ」
「……うん?」
思わず振り向くと、関谷は列の前方を見つめたまま、苦々しい表情で唇を噛みしめていた。いつもの見下すようなドヤ顔や、荒々しい態度は影を潜め、どこか余裕のない、焦りのようなの色がその横顔に浮かんでいる。
「……俺、本気で桜ちゃんの事、好きなんだ」
ボソリと呟かれたその言葉は、あまりにも真剣で、唐突だった。
桜への好意。それ自体に嘘はないのだろう。だが、だからこそ直前の店での無神経な行いが頭に浮かび、俺の胸の中にフツフツと不快感が込み上げてくる。俺は声音を低く抑え、咎めるような視線を関谷に向けた。
「……じゃあ、何でさっきあんな事したんだ? 嫌がってる桜に無理やり食べさせて、吐き出したら『汚い』なんて……本気で好きなら、もっと相手の気持ちを考えられるだろ」
俺のストレートな責め苦に、関谷はビクッと肩を揺らした。一瞬、怒りを露わにするかと思ったが、彼は悔しそうに拳を握りしめ、弱々しく息を吐き出した。




