カトラリー
郁美の言葉を受け、関谷はフンと鼻を鳴らすと、渋々といった様子でトングを手に取った。先ほどまでのドヤ顔は見る影もなく、不機嫌さを露わにしながら、自分の取り皿へとデラックスパンケーキの塊をドカドカと取り分けていく。
そこからは、およそ「クリスマスデート」とは程遠い、重苦しい沈黙の時間が訪れた。
結局みんな、一言も交わさないまま黙々とフォークを動かしている。お洒落な店内に流れるクリスマスソングが、かえって4人の異様な空気を際立たせていた。桜は小さな一口を時間をかけて口に運び、関谷は鬱憤を晴らすかのように力任せに生地を口へと放り込んでいく。カトラリーが皿に当たるカチャカチャという乾いた音だけが、虚しく響いていた。
そんな凍りついた空気をどうにかしようと、郁美は健気に声を張り上げた。
「あ、達也くん! このバナナチョコパンケーキ、すごく美味しいよ! 」
そう言って俺のさらに一口分のバナナパンケーキを載せる。
「ほ、ほんとか……俺のも美味いぞ。ほら、」
俺もお返しに苺とアイスの乗ったやつを一口分にして、郁美の皿に移した。
「わぁ、ありがとう! うん、甘酸っぱくて美味しいね!」
郁美は時折「これ美味しいね」「生クリームがふわふわだね」と弾んだ声を出し、場を和ませようと必死に振る舞ってくれた。俺もその想いに応えようと必死に言葉を返したが、一度ヒビの入ってしまったその場の雰囲気は簡単には戻らなかった。
関谷の横顔には苛立ちの影が濃く落ち、桜の肩は小さく震えたままだ。
俺は桜に苺のパンケーキの苺の部分をさっと皿に移す。
「ほら、苺…好きだろ?」
さっきまでパンケーキと睨めっこをしていた桜がパッと顔を上げる。
「ありがと…」
関谷もこのやりとりに気づいているだろうが、見て見ぬふりをして、自分のパンケーキを食べている。
(この様子じゃ、パンケーキを食べ終えた後もまともな空気にはならないな……)
俺はスモールパンケーキを喉に押し込みながら、胸の奥でひやりとした緊張感を高めていた。
重苦しい空気と静寂が支配する中、やがてテーブル中央の「デラックスパンケーキ」の前に、二人のフォークの動きが完全に止まった。
皿の上に残されているのは、崩れ落ちた生地と溶けかかった生クリームが混ざり合った、全体のおよそ三分の一ほどの塊だ。最初の勢いはどこへやら、生地が吸い込んだ油分と濃厚すぎる甘さが、後半になってずしりと胃袋へ容赦なく不快感を叩き込んできたのだろう。ある程度は予想していた結末だったが、やはりこうなったか、と俺は心の中で小さく息を吐いた。




