拒絶反応
「ほら、あーん!」
しかし、フォークの先に突き刺さったその一口は、あまりにも大きすぎた。
生地の間から溢れ出た大量の生クリームがドロリと垂れ下がり、桜の小さな口元には到底収まりきらない巨大な塊となっている。一口どころか、大人の男でも頬張るのに苦労するほどのサイズだ。
引いている桜の戸惑いや困惑なんてまるで意に介さず、関谷は勝ち誇ったような笑顔のまま、切り分けたパンケーキを強引に桜の口元へと押し進めた。
「ほらほら! 冷めないうちに、はい! あーん!」
「え……あ……ん、うぇ……んぐ……っ」
拒否する間もなく、生クリームまみれの重厚な生地が口の中に強引に突っ込まれた。
「んぐ……っ、ふ……」
口の端に白いクリームを付着させ、桜は頬を限界まで膨らませながら、ボロボロと溢れそうになるパンケーキを必死で口の中に収めようとする。喉に詰まらせそうな苦しさからか、その澄んだ瞳にはみるみるうちに薄っすらと涙が浮かんでいった。あまりにも痛々しく、見ていられない光景だった。
(なんなんだよ、それ……! 嫌がってんのが分からないのかよ……!)
テーブルの下で、握りしめた自分の拳が激しく震える。今すぐにでも関谷の手を払い除け、桜を助け出してやりたいという衝動が激しく突き上げてきた。
だが、ついさっき「部外者は黙ってて」と釘を刺されたばかりだ。ここで俺が下手に強く口を出せば、このダブルデート自体がおじゃんとなり、郁美と立てた『映画館二人きり作戦』が実行できなくなってしまうかもしれない。
葛藤に胸を締め付けられながら、俺は引きつった声で弱々しく呟くことしかできなかった。
「お……おい……だ、大丈夫かよ……?」
憤りともどかしさに苛まれながら、俺はただ涙目になっている桜の姿を、見つめることしかできなかった。
桜はそれでも、差し出されたものを無下にすることも出来ず、両頬をリスのようにパンパンに膨らませながら、なんとか噛み砕こうと必死に顎を動かしていた。
両手でしっかりと口元を押さえ、真っ赤に紅潮した顔でぐっと首を小さく上下させる。しかし、喉の奥を塞いでいるのは、口の中の水分を根こそぎ奪い去る激重の生地と、舌にまとわりつく圧倒的な生クリームの塊だ。咀嚼しようとすればするほど口の中で塊が膨らみ、飲み込むどころか、息をする隙間すら奪っていく。
「んぐっ……ぐ、ぅ……っ、ふ……っ」
喉が喉笛を鳴らし、浅い呼吸すら通らなくなっていく。詰まる息苦しさと激しい異物感に、桜の目から溢れ出た涙が、頬を伝ってボロボロとこぼれ落ちた。
もう、限界だった。
真っ赤に染まっていた彼女の顔色から一転してサッと血の気が引き、喉が限界を超えた拒絶反応を起こす。




