ピリピリ
浮かれる関谷の横で、俺はどうしても桜のその表情を見過ごすことができなかった。
テーブルの下で握りしめた拳に力がこもる。
周りに聞こえないよう、向かいの桜だけに届く極小の声で、俺はそっと呟いた。
「……大丈夫か?」
桜はピクッと眉を揺らし、ハッとしたように俺を見つめた。
その瞳には隠しきれない困惑と疲弊が滲んでいたが、俺を心配させまいとするように、一度だけコクリと小さく頷いて見せた。
大丈夫だから、と強がるような、切ない意思表示だった。
だが、その僅かな二人の視線の交差を、関谷は見逃さなかった。
「あのさー、達也」
氷のように冷たい声がテーブルを叩いた。
関谷は肘をつき、眉間にしわを寄せて俺を睨みつけていた。
「これは俺たちカップルの問題な訳。部外者は黙っててくれない?」
隠そうともしない、むき出しのイラつき。
桜を自分の所有物のように扱い、俺をそこから排斥しようとするマウントの意図が嫌というほど伝わってくる。
隣で郁美が息を呑み、テーブルの空気が一瞬でピリッと凍りついた。
脳裏で激しい怒りが渦巻いたが、俺は歯を喰いしばってその感情を力任せに押し殺した。
桜自身が一度頷いて受け入れた以上、俺に言えることは何もない。
俺は深く息を吐き出し、意図的に視線を外して冷ややかに返した。
「……あー、悪かった」
ピリピリとした嫌な刺迫感がテーブルを包み込み、そのまま凍りつきそうになった空気を打ち消すように、郁美が柔らかな声音で言った。
「じゃ、じゃあ……さっそく注文しちゃおっか! お腹すいちゃったし!」
郁美はあえて、空気を変えようと手元の呼び出しボタンを迷わず押した。
すぐに愛想の良い店員が伝票を持ってテーブルへとやってくる。
重苦しい雰囲気を察させないよう、郁美は率先して注文を進めていった。
「えっと、まずはこの『恋するふたりの☆カップル割デラックスパンケーキ』をひとつ……二人でシェアする形で」
関谷は待ってましたとばかりにドヤ顔で言い放ち、満足そうに鼻を鳴らした。
桜はどこか諦めたような笑みを浮かべ、「……お願いします」と小さく店員に頭を下げる。
「かしこまりました。デラックスパンケーキをおひとつですね。他にご注文はございますか?」
「俺は、この『スモール苺アイス乗せパンケーキ』で」
俺は関谷たちのやり取りから視線を外し、手元のメニューを指差して注文した
「私はこの『バナナチョコパンケーキ』でお願いします!」
郁美も可愛らしくメニューを指指し、ハキハキとした声でオーダーを済ませた。
「かしこまりました。少々おまちください」
店員が伝票を書き終え、礼をして立ち去っていく。
注文が完了し、ひとまずのやり取りが終わったことでテーブルには一瞬の静寂が訪れた。
関谷は満足げに腕を組み、背もたれにふんぞり返っている。
桜は手元の水を一口含み、気まずそうに俯いていた。




