無理強い
まさかの即答での辞退に、関谷は一瞬、「なんだよコイツら……」と言いたげに怪訝そうな表情を浮かべた。
二人のあまりに切実な引きつり具合に不審感を抱いたようだったが、すぐに鼻で笑って興味を失うと、ニタニタとした笑みを貼り直して隣の桜へと向き直った。
「ねえ! 桜ちゃんはどう? カップル割デラックスパンケーキ!」
関谷は無邪気さを装いながら、期待に満ちた目を桜に向けた。
だが、振られた桜の表情は決して明るいものではなかった。
メニューの写真に視線を落としたまま、どこか気まずそうに、躊躇いがちに小さな口を開く。
「う、うーん……わ、私はこっちの方がいいかも……」
桜が細い指先で指したのは、可愛らしいスモールサイズの苺とバニラアイスが乗った、ごく控えめなパンケーキだった。
デラックスパンケーキのあの圧倒的なボリュームに気後れしたのか、それとも「カップル割」という名目に抵抗があるのか、あからさまに乗り気ではない様子だ。
「えー、桜ちゃんもかよー!
ねー、俺たち付き合ってるんだからさ!
最初の記念として、カップル割デラックスパンケーキにしようよ!
ね! お願い!」
拒否されると思っていなかったのか、関谷はあからさまに不満げな声を上げ、強引に食い下がった。
テーブルに身を乗り出し、まるでワガママを言う子供のような態度で桜の顔を覗き込む。
「うーん……」
眉を八の字に寄せ、困り果てたように視線を泳がせる桜。
その表情には、明らかな困惑と負担の色が滲み出ていた。
そんな桜の反応を見て、関谷の態度にじわりと不機嫌な圧が混じり始める。
「ねー、昨日だってさ、そう言って俺のお願い断ったじゃん!
俺のお願いちょっとくらい聞いてくれても良くない?
それが付き合ってるってことだろ? 俺たち」
『付き合っている』という関係を盾にして、罪悪感を煽るようにプレッシャーをかける関谷。
その言葉には、恋人に対する気遣いなど微塵もなく、自分の思い通りに相手をコントロールしようとする身勝手な傲慢さが透けて見えていた。
(……昨日の夜も、関谷は桜に何か無理強いしようとして断られたのか……?)
関谷の口から出た言葉に、俺の胸の奥で嫌な予感が渦巻く。
俺の隣で、郁美も唇を噛み締めながらハラハラした様子で二人を見つめていた。
桜は小さく肩をすくめ、関谷の威圧感に押し潰されそうな顔で黙り込んでしまっている。
表面上は取り繕っていても、関谷の強引で自己中心的な本性が、早くもボロとなって顔を出し始めていた。
「じゃ、じゃあ……それにしよっか……」
関谷の威圧的な態度と『付き合ってる』という言葉の重圧に押し切られる形で、桜はぽつりと呟いた。
半ば諦めたような、弱々しい同意。




