中央口前
決戦の舞台となる集合場所は、多摩センター駅の中央口前だ。
俺たちは集合時間の15分前に駅へ到着し、人通りが行き交う改札を出たすぐの場所で待機していた。
冬の凛とした空気に身を包みながら、刻一刻と迫る時間に心臓の鼓動が早まっていく。
それから約5分後——約束の10分前になった頃、改札の向こうから一人の少女が姿を現した。
「あ……」
俺は思わず息を呑んだ。
そこにいたのは、間違いなく桜だった。
普段は学校の制服姿くらいしか目にする機会がなかったが、今日の彼女の私服姿はあまりにも眩しかった。
純白の清楚なワンピースの上に羽織っているのは、襟元にふわふわとしたフェイクファーがあしらわれたパウダーピンクのロングコート。
首元にはざっくりと編まれた白いニットマフラーを巻き、手元にはコートと同系統の小ぶりなバッグ、そして足元はスマートなホワイトブーツで整えられている。
まさにこの街の冬を彩るために舞い降りてきた雪の妖精のように、格別に可憐な装いだった。
近づいてくるにつれて分かったが、ほんのりと頬や唇に彩りを添えたナチュラルメイクが施されている。
過度な飾りのないそのメイクが、彼女が本来持つ透明感溢れる魅力をより一層際立たせていた。
街ゆく人が思わず振り返るほどの存在感を放ちながら、桜はこちらに気づいて小さく手を振った。
「お、おはよう……」
俺たちの目の前で足を止めた桜は、どこか居心地の悪さを隠せない様子で、上目遣いにこちらを見つめながら小さく挨拶をした。
息を呑むほど可憐な冬の装いとは裏腹に、その声にはかすかな硬さが混じっている。
「お……おはよう。ひ、一人で来たんだな……」
関谷と一緒にやって来るのではないかという密かな懸念と、私服姿のあまりの眩しさに圧倒された俺は、柄にもなく言葉を詰まらせてしまった。
すると桜は、パッと頬を微かに赤らめ、照れ隠しのようにぷいと横を向いてみせた。
「あ、当たり前じゃない。ま……まだ高校生なんだから。普通は現地集合、現地解散よ……」
どこかこちらの反応を探るような言葉。
軽くこちらをチクリと刺す様子見のジャブみたいなものだと分かってはいても、俺の心臓は一瞬ドクンと嫌な跳ね方をした。
だが、ここで動揺を見せたら負けだと思い、俺は必死に冷静さを装って、あえてとぼけた生返事を返す。
「へ、へー……今どきの高校生ってそうなんだ」
「あんたも高校生でしょ!」
間髪入れずに食い気味で飛んできた、鋭いツッコミ。
あきれたように目を丸くする桜の表情を見て、俺は胸の奥でホッと小さな吐息をついた。
文化祭以来、どこか遠くに感じていた彼女との壁が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。




