朝食
俺はふと漂ってきた香ばしい匂いで目を覚ました。
出汁の豊かな風味と、魚がじっくり焼ける香ばしい匂い。
重い瞼を擦りながら階段を降りていくと、朝日に包まれたキッチンで、エプロン姿の郁美がトントンと軽快な音を立てて包丁を振るっていた。
髪を後ろで一つにまとめ、お玉を持ってお味噌汁の味見をしているその姿は、驚くほどこの家に馴染んでいる。
「あ、達也君! おはよう!」
パッとこちらを振り返り、花が咲くような明るい笑顔で声をかけてくる郁美。
「お、おはよう……」
俺はまだハッキリしない頭をポリポリとかきながら、壁の掛け時計へ視線をやった。
「どうした? まだ、6時前だぞ?」
「えへへ、今日はね、私が達也君の朝食作りたくて、早起きしたの!」
「マジか……」
照れくさそうにえへへ、と笑う郁美の言葉に俺は絶句した。
食卓に目をやると、そこにはこんがりと絶妙な焼き色のついた鮭の塩焼き、湯気が立つお味噌汁、彩り豊かな野菜の炒め物、ふっくらと炊き立てのご飯が綺麗に並べられていた。
まさに誰もが憧れる完璧な「ザ・日本の朝ごはん」だ。
「ちょうど今出来たところだから、冷めないうちに一緒に食べよ!」
郁美に手際よくエプロンを外され、促されるままに座席へとつく。
昨日までのあの暗い苦悩が嘘だったかのように、甲斐甲斐しく動く彼女の姿と目の前のごちそうを見比べる。
「マジで美味そうだな……良いところのお店の朝食みたいだ」
「でしょ! 達也君のために頑張って作ったの。じゃあ、頂きます!」
「おう、頂きます!」
両手を合わせた後、俺はまず湯気が立ち上るお味噌汁の椀を手に取った。
一口そっと口に含むと、丁寧にとられた出汁の深みと優しい味噌の香りが、まだ完全に目覚めきっていない身体の隅々にまでじわリと染みわたっていく。
具材の大根と豆腐にもしっかりと味が染み込んでいて、思わず小さく息を漏らしてしまうほど温かい。
続いて、箸で鮭の塩焼きをほぐす。
皮目はパリッと香ばしく焼かれ、中のピンク色の身はふっくらと柔らかい。
それを一つまみ口に運び、間髪入れずに炊き立てのご飯を追いかけさせる。
甘みのあるお米と鮭の程よい塩気が絶妙に絡み合い、箸が勝手に次へと伸びてしまう。
野菜炒めもシャキシャキとした食感が残っていて、醤油とごま油の香ばしさが食欲をどこまでも掻き立てた。
(……めちゃくちゃ上手いな、マジで)
一人暮らしの適当な朝食や、コンビニのパンで済ませる日常とはまるで違う、どこまでも温かい「家庭の味」。
だが、それ以上に俺の胸を打ったのは、目の前の料理そのものだけではなかった。




