ヒモ
俺たちはその大量のコインを元手に、館内のいろんなゲームを次々と満喫していった。
ところが調子に乗ってあれこれ手を出しているうちに、気づけば俺の手持ちだけがみるみる減っていく。
郁美は笑顔でどうぞと分けてくれる。
まるでヒモのような時間が始まり、俺はいたたまれなくなった。
「郁美がこんなにコインゲーム上手いとは……」
「ね! なんかすごい当たったね!」
郁美は屈託のない笑顔で笑って見せた。
その笑顔を見れただけで、今日は来て良かったと素直に思える。
閉店間際、残ったコインをこっそり近くにいたちびっ子たちにあげて、俺たちはゲームセンターを後にした。
気づけば時刻は十七時を回っていた。
すでに外はだいぶ暗くなっていて、冷たい風が街を包んでいる。
吐く息も、さっきより一段と白さを増していた。
「そろそろ、帰るか。」
そう言うと、郁美がすっと俺の手を取った。
ドキッとしながら郁美の方を見ると、彼女は俯いたまま何も言わない。
「ん? どうした?」
「も、もうちょっと……」
伏し目がちに、消え入りそうな声でそう言った。
「じゃあ……もうちょっと歩くか。」
「うん!」
そうして、手を繋いだまま、俺たちはイルミネーションの飾られた街並みを二人でゆっくりと歩いた。
(これ、リア充じゃん!!)
思わず心の声が口から飛び出しそうになったが、なんとか抑え込む。
繋いだ手のひらから伝わる郁美の体温が、冬の冷たい空気の中でやけに温かく感じられた。
何度も目にしてきたはずのイルミネーションが、今夜はまるで別ものみたいに輝いて見える。
こんな温かい感情を抱くのは、本当に久しぶりだった。
いつぶりだろう……ああ、そうだ。
桜と子供の頃、桜の木の下で綺麗な花びらを一緒に探して歩き回っていた時以来だ。
あの時、俺たちは夢中になりすぎて、気づけば親元からはぐれてしまっていた。
心細さに泣きべそをかき始めた桜の手をぎゅっと握って、
「大丈夫、絶対に二人でいれば、絶対に!」
そう言って元気づけたっけな。
そんな昔のことを思い出しながら歩いていると、自然と頬が緩んで笑みが溢れる。
「達也くんが今何を考えているか、当ててあげよっか?」
気づけば郁美がこちらをじっと見つめながら、悪戯っぽくそう話しかけてきた。
俺が何か取り繕う暇も与えず、郁美は畳みかけるように「桜ちゃんでしょ?」と問いかける。
「いや、ちがっ……!」
「……ふふん! 当たりだ!」
ニシシ! というような擬音が聞こえてきそうな、得意げな笑みを浮かべた。
それから郁美は、ほんの一瞬だけ寂しそうな笑みを浮かべて、すっと前を向いた。
イルミネーションの光が揺れる中、その横顔だけがなぜか妙に儚く見えた。




