大食い実況
平静を装った顔でパンケーキと戦う俺の姿がツボに入ったのか、郁美は楽しそうに目を細めると、バッグからスマホを取り出してカメラをこちらに向けてきた。
「さあ、達也選手! この超大盛りパンケーキ、見事全て食べ切る事が出来るのでしょうか!?」
突然始まった、アナウンサー気取りの弾んだ声。
俺もそのノリと寸劇にノリノリで乗っかることにした。
あえて苦渋に満ちた表情を作り、額の汗を拭うフリをしながら、重々しく呟く。
「……ふぅ……これで……100杯目か……っ」
「おーっと! 達也選手、なんとこれが前人未到の100杯目だーっ! これを見事に達成すれば、なんと賞金100万円獲得です! 」
郁美はスマホの画面越しに目を輝かせ、まるで本当の大食い番組の現地リポーターになりきって実況を続けている。
そのノリの良さと無邪気さに、俺の口元も思わず緩みそうになる。
俺はフォークで最後の一切れをすくい上げると、覚悟を決めて口の中へポンと放り込んだ。
モグモグと必死に咀嚼し、すかさずグラスの水を手に取って一気に喉へと流し込む。
ゴクンと飲み込んだ瞬間を見届けた郁美が、歓声を上げた。
「おー! ついに! ついに完食! 100万円獲得だーっ! おめでとうございまーす!」
俺も郁美のカメラに向かって、パンパンに膨らんだお腹を押さえながら、渾身の小さく力強いガッツポーズをキメてみせた。
「……やったぞ……100万円……ゲットだ……」
俺の限界ギリギリの表情と情けない声に耐えきれなくなったのか、郁美はスマホを下ろすと、「ふふっ、あははっ!」と声をあげてクスクスと笑い転げた。
「……マジで限界突破したわ……」
しばらく楽しそうにクスクスと笑う郁美の姿を眺めながら言った。
「な、なんなんだこれは(笑)。周りの人たちに絶対『変な奴ら』って思われてるって……」
「ウフフ、大食い実況ごっこ! 」
そんな冗談を交わしながら、俺たちは食後の休憩を挟むことにした。
俺は残っていた冷めたブラックコーヒーを一口含み、口の中に残る甘さを苦味でさっぱりと洗い流す。
郁美も冷めて落ち着いた紅茶を上品に口へと運び、ふぅっと満足気な息を漏らした。
ガラス窓の向こうでは、多摩センターのストリートを人々が行き交っている。
店内は相変わらず満席で賑やかで、明日の作戦という重い課題を背負っていることを忘れてしまいそうになるほどだった。
「お腹、落ち着いた?」
「うん、水飲んで休んだらだいぶラクになった! 」
「明日はメニュー選びは慎重にしないとだね」
「だな!」
二人でクスクスと顔を見合わせ、胃袋が充分に落ち着いた頃合いを見計らって、俺はテーブルの端に置かれた伝票を手にとった。
「よし、じゃあそろそろ行こうか」
「うん!」
席を立ち、伝票を持ってレジへと向かう。
会計を済ませて「ありがとうございました!」という店員さんの明るい声に見送られながら、俺たちはカフェの重厚なドアを押して外へと出た。




