選手交代
いよいよここからが選手交代、男の俺の本領発揮——のはずだった。
フォークでパンケーキを一口大に切り分け、たっぷりのクリームとイチゴを添えて口の中へと放り込む。
「ん……ッ!?」
口に入れた瞬間、俺は激しい衝撃に襲われた。
ふわふわとした可愛らしい見た目とは裏腹に、ずっしりと凝縮された生地が、口の中の水分を瞬時に、そして容赦なく全て持って行ったのだ。
パサつきとは違う、圧倒的な密度の生地が喉の奥に張り付くような感覚に、思わず目が点になる。
(うわ、これ見た目以上に生地が重いぞ……!)
「あ、すみません! お水をふたつお願いします!」
俺は慌てて通りかかった店員さんを呼び止め、冷たいお水をふたつ注文した。
運ばれてきたグラスを「はい」と郁美にひとつ手渡すと、自分も届いたばかりの氷水を一気に喉へと流し込む。
冷たい水が喉を潤すと、ようやく生きた心地がした。
「達也くん、大丈夫……?」
「あ、ああ……ちょっと油断しただけだ。……よし」
気を取り直した俺は、セットのブラックコーヒーを合間に挟みつつ、黙々とパンケーキを切り分けて口へと運んでいった。
「残りはまかせろ」と格好をつけて宣言してしまった手前、ここで不甲斐ない姿を見せるわけにはいかない。
ナイフとフォークを休ませることなく、一心不乱に食べ進める。
甘党というわけでもない男の胃袋にとって、この生クリームとシロップの濁流は想像以上の強敵だった。
そうして、自分が任されたパート——全体のさらに3分の1を食べ終えたところで、俺の胃袋は早くも明確な「腹八分目」のサインを感知していた。
(……マジかよ。まだ全体の3分の1残ってんのに……!?)
皿の上にポツンと残された最後の3分の1を見つめながら、俺は背中にじんわりと冷や汗が伝うのを感じていた。
郁美はこんなに小柄なのによくこれの3分の1も食べたな……と感心しつつも、残された巨大な山を見つめ、俺は覚悟を決めてフォークを強く握り直した。
ブラックコーヒーの苦味で口の中の甘さをリセットし、冷たい水で喉を潤しながら、俺はさらなるスパートをかけていった。
一口、また一口と、ずっしり重い生地を口へ運んでいく。
生クリームとシロップの甘さが容赦なく胃袋を圧迫してくるが、一心不乱にフォークを動かし続けた。
そうして格闘すること数分。
お皿の上にポツンと残ったのは、いよいよ最後の一切れとなった。
その頃には、ひと休みして水を飲んでいた郁美もだいぶ胃が落ち着いてきたらしく、顔色がすっかりよくなっていた。




