ハムスター
とても高校生ふたりで「ちょっとお茶する」レベルの量ではない。
完全にデカ盛りスイーツの領域だ。
「す、すごいね……これ……」
さっきまで「食べたい」と目を輝かせていたはずの郁美も、目の前に鎮座するあまりの存在感に、若干引き気味で頬をひきつらせていた。
どこからフォークをつければいいのか分からず、固まっている。
「ま、まあ、 郁美が食べきれなかったら、残りは俺が全部食うからさ。気兼ねせず好きなだけ食べてくれ!」
「……! 達也くん……ありがとう!」
俺の言葉に郁美の表情が一気にパッと華やいだ。
不安が吹き飛んだように、花が綻ぶような笑顔を浮かべる。
郁美はバッグから素早くスマホを取り出すと、「ちょっと待ってね!」と言って、いろんな角度からパシャパシャと数枚写真を撮り始めた。
上から全体を映したり、苺とクリームのアップを狙ったりと、女の子らしく楽しそうに画面を覗き込んでいる。
納得のいく写真が撮れたのか、スマホを置いた郁美はフォークとナイフを手に取り、嬉しそうに目を細めた。
「それじゃあ……いただきまーす!」
小さく手を合わせると、郁美は柔らかいパンケーキにサクッとナイフを入れ、苺とクリームをたっぷり乗せた一口目を、幸せそうに口へと運んだ。
食べ始めてからおよそ15分。
最初こそ「すごく美味しい!」と目を輝かせて幸せそうに頬張っていた郁美だったが、巨大なパンケーキの圧倒的な質量と、容赦なく襲いかかる生クリームの甘さのパンチに、次第にその勢いは陰りを見せ始めていた。
大体全体の3分の1に差し掛かろうかというところで、郁美のペースダウンが顕著になった。
さっきまでの軽快なフォークの動きは完全に止まり、小さく切ったほんの一口分を口に運んでは、うーんとうなりながら時間をかけて咀嚼している。
頬をぷっくりと膨らませて必死に飲み込もうとしている姿は、まるで限界まで餌をほっぺに詰め込んだハムスターのようだ。
「……きつい?」
俺が苦笑いを浮かべながら尋ねると、郁美はハッと背筋を伸ばし、口元にちょこんと生クリームをつけたまま必死に強がってみせた。
「ま、まだ……大丈夫……っ。す、すごく美味しいし……!」
しかし、視線はパンケーキから遠く離れた壁のポスターへと露骨に逃げている。
強がってはいるものの、どう見ても限界の一歩手前だった。
「何と戦ってんだよ(笑)。無理すんなって。一回休も? また食べたくなったら、いつでも言って」
「う、うん……ごめんね、達也くん……」
俺がクスッと笑いながら言うと、郁美は申し訳なさそうに肩を落とした。
俺は郁美の手元から大皿をゆっくりと自分の方へと手繰り寄せる。




