規格外
店員さんのハキハキとした声で店内に響く「カップル割」というワード。
その瞬間、向かいに座る郁美の肩がびくっと跳ね上がり、俺の背中にもチクチクとした甘酸っぱい痒みが走った。
まわりのお客さんに「あの二人、カップル割頼んでる」と思われているんじゃないかと、余計な自意識過剰が発動してしまう。
「セットのお飲み物がふたつお選びいただけますが、いかがなさいますか?」
「お、俺はブラックコーヒーで……郁美は?」
動揺を隠すように軽く咳払いをして、俺は向かいの郁美へとバトンを渡した。
「わ、私は……こ、紅茶でお願い、します……っ!」
郁美は顔を耳の先まで林檎みたいに真っ赤に染め上げ、緊張のあまり背筋をピシッと伸ばしながら、上ずった声で注文した。
メニュー表で顔の下半分を隠すようにして、店員さんと目を合わせられないでいる。
「かしこまりました。ブラックコーヒーと紅茶ですね。パンケーキは焼き上がりに15分ほどお時間をいただきますので、少々お待ちくださいませ」
仲睦まじい(あるいは照れまくっている)高校生カップルの姿が微笑ましく映ったのか、店員さんは目元を優しく和ませながら丁寧に頭を下げると、伝票を持って厨房の方へと姿を消していった。
残されたテーブルには、注文を終えた安堵感と、それ以上に二人を包み込むなんとも言えない甘酸っぱい照れくささが充満していた。
俺は、軽く咳払いをひとつ挟み、雰囲気を振り払うように話題を変えた。
「そういえばさ、明日観る予定の映画って、具体的にどんなやつだったっけ?」
「うん? あ、映画ね! えっとね……」
郁美も気まずさを誤魔化すように身を乗り出し、人差し指を唇にあてて思い出す仕草をした。
「確か、最近話題になってる青春ミステリー系だったと思う!
ネットのレビューでも『ラストの伏線回収がすごい』って評判で、上映時間も2時間弱くらいだから、途中で抜け出す作戦にもぴったりなんじゃないかなって」
「へえ、青春ミステリーか。関谷の奴も、そういう話題作なら二つ返事で乗ってきそうだな」
そんな感じで明日の映画ついて話し合っていると、厨房の方から先ほどの店員さんが大きなトレーを抱えてこちらへ歩いてくるのが見えた。
「お待たせいたしました!
『カップル割デラックスパンケーキ』でございます!」
「「っ……!」」
テーブルの上にドンッと置かれた大皿を見て、俺と郁美は思わず言葉を失い、同時に息を呑んだ。
メニューの写真で見た段階でも十分大きそうだったが、実物は想像を遥かに超える迫力だった。
男の手のひらよりも分厚いパンケーキが贅沢に3枚積み重ねられ、その上からは雪崩のように山盛りの生クリームと、溢れんばかりの真っ赤な苺、大粒のブルーベリーがこれでもかと盛り付けられている。
全体に回しかけられたメープルシロップと粉砂糖が、焼き立ての香ばしい湯気とともにキラキラと光を反射していた。




