カップル割
写真の横には、POPな文字で『シェアにちょうどいい! カップル限定の特別価格♪』という吹き出し添えられている。
(うわ、これはすごいボリュームだな……)
男の俺でも一瞬「うおっ」と声が出そうになるインパクトだったが、ふと向かいの郁美に目をやると、彼女の動きがピタリと止まっていた。
まるで金縛りにでも遭ったかのように、郁美の瞳はメニューの中央にある『カップル割デラックスパンケーキ』に完全にロックオンされている。
生唾をゴクリと飲み込み、まるで宝箱でも見つけたかのように瞳をウルウルと潤ませて、じーっとその写真を穴が開くほど見つめている。
さっきの「下見だから大丈夫」という強がりはどこへ行ったのか。
「……んー、俺、これがいいかもな〜」
できるだけ深く考えずに、たまたま目に留まったような雰囲気を装って、俺は指先で『カップル割デラックスパンケーキ』の写真を突いた。
「えっ……!?」
俺の指先を見た瞬間、郁美がハッと顔を弾けさせた。
「え、あ、そ、そうなんだ……?
でも、これって……
あ、でも確かにすごく美味しそう……!」
写真の上に躍る『カップル割』の文字と、俺の顔を交互に何度も見比べる郁美。
頬が瞬く間に赤く染まり、動揺を隠しきれない声が上ずっている。
「二人でシェアするのにちょうどいい量みたいだしさ。
色んなフルーツが載ってて美味そうだしさ」
とりあえず理由を並べ立てる。
「う、うん……!
達也くんが良いなら……
私も、それで……っ」
郁美は両手でメニューの端をキュッと握りしめ、照れ隠しに小さく唇を噛み締めながら、コクリと小さく首を振った。
——と、その絶妙なタイミングで、店員さんがテーブルの脇を通りかかった。
「あ、すみません」
俺はすささっと手を上げて声をかけた。
ここで躊躇したら、また恥ずかしさで注文のタイミングを失ってしまうと思った。
「はい!
ご注文はお決まりでしょうか?」
エプロンを着た笑顔の素敵な店員さんが、すぐに伝票とペンを手にテーブル脇へとお冷を補充しながら寄ってきてくれる。
俺はメニューの『恋するふたりの☆カップル割デラックスパンケーキ』の写真を指差し、恥ずかしさをなんとか喉の奥に押し込みながら口を開いた。
「はい、あの……
これ一つください……」
できるだけ商品名を口に出さず、指差しだけで済ませようとした俺の悪あがきだったのだが、店員さんは慣れた手つきでメモを取りながら、朗らかな声でバッチリと復唱してくれた。
「かしこまりました!
『カップル割デラックスパンケーキ』ですね!
ありがとうございます!」




