クリスマスイブ⑨
「へえ、ここか……かなり洒落た店だな」
時刻はまだ午前11時頃だというのに、店内のテーブル席はすでに大半が埋まっているようだった。
それどころか、入口の受付前には早くも数組の女子高生グループやカップルが並んで順番を待っている。
さすが最近話題になっている人気店といった混雑ぶりだ。
明日、関谷たちと来るなら開店直後を狙うか、少し早めに予約を取っておかないとスムーズに入れないかもしれない——そんなことを考えながら混雑状況をチェックしていると、ふと隣に立つ郁美の様子がおかしいことに気づいた。
郁美はコートの袖口をぎゅっと握りしめたまま、その場でもじもじと小さな足踏みを繰り返してソワソワしている。
視線の先を追ってみると、彼女の目はガラス窓越しに見える、他のお客さんのテーブルに運ばれてきたばかりの巨大な焼き立てパンケーキに釘付けになっていた。
厚みのあるふわふわの生地の上に、たっぷりの生クリームと真っ赤な苺が贅沢に載せられている。
そこから立ち上る香ばしく甘い湯気まで見えてきそうな距離だ。
郁美の喉が、引き寄せられるようにかすかに動く。
「どうした?
食べたいのか?」
俺が半ば苦笑交じりに声をかけると、郁美はビクッと小さく肩を跳ねさせ、慌てて視線を俺の方へと戻した。
「ん?
ううん!
だ、大丈夫だよ!
今日はあくまで明日の下見だし……!」
首をブンブンと横に振って否定してみせるものの、その声はあからさまにうわずっていた。
しかも「大丈夫」と言っている口の端からは言葉とは裏腹に、その視線がどうしても吸い寄せられるようにチラチラと再び店内のパンケーキへと戻っていってしまう。
まさに「目が欲しがっている」状態そのもので、彼女の分かりやすすぎる反応に俺は思わず口元が緩んでしまった。
元に戻ってこうして普通の「女の子」らしい欲望を見せてくれているのが、俺にはどこか嬉しくもあった。
「……よし」
俺は躊躇うことなく手を伸ばし、コートの袖口から覗く郁美の華奢な手首をそっと掴んだ。
「えっ……
あ、達也くん……!?」
不意に伝わった体温に郁美が弾かれたように肩を跳ねさせ、まん丸く見開いた瞳で俺を見上げてくる。
「立ち話してたら、俺めっちゃ腹減って倒れそうだからちょっと付き合って!」
「えっ、で、でも……
下見だけじゃ……」
「いいからいいから!
店内の雰囲気も実際に食べてみなきゃ分かんないだろ?」
後ろから追いてくる郁美が、繋いだままの手をきゅっと少し強めに握り直しながら、小さく呟いた。
「いらっしゃいませ!
お二人様ですか?」
ドアベルの涼やかな音とともに、店員さんが笑顔で出迎えてくれる。




