クリスマスイブ⑧
「……うん!
すごくいいと思う!」
深く頷いていた郁美が、ふと何かをひらめいたように「あ!」と小さな声を上げ、ぱっと手をポンと叩いた。
「ねえ、それで思いついたんだけど……
桜ちゃんと二人きりになるタイミング、映画の上映中ってどうかな?」
「上映中?」
「うん!
映画が始まってしばらく経ったら、達也くんが『トイレに行く』って自然に席を立つの。
私があらかじめ、お買い物の最中かどこかで桜ちゃんに『達也くんが席を立ったら、少し遅れて追いかけて』ってこっそり伝えておくから。
映画館のロビーとかで二人だけで話すの!
そうしたら暗闇と劇場の音で紛れるし、邪魔も入らないでしょう?」
確かに上映中の劇場外なら、買い物中の混雑したモールやレストランのテーブル越しとは比べものにならないほど二人きりの空間を作りやすい。
周りにも人が少ないはずだし、文化祭の劇でのすれ違いや、昨夜の『送信取り消し』の真意について、しっかり言葉を交わすには丁度いいか。
だが、ひとつだけ心配なことがあった。
「……関谷が怪しまないかな?
桜が席を立ったら、あいつ間違いなく不審に思ってついて行こうとするぞ」
あの関谷のことだ。
桜に対する執着心と独占欲は異常なはずだ。
桜が一人で席を立とうものなら、「どこ行くの? 俺も行くよ」と立ち上がったり、不機嫌になって様子を見に行ったりする可能性は十分にある。
すると郁美は、少し緊張した面持ちを見せつつも、キュッと唇を結んで力強く自分の胸に手を当てた。
「怪しむかもしれないけど大丈夫!
私が関谷くんの事は絶対に止めとくから!」
「郁美……」
「もし関谷くんが立ち上がろうとしたら、私が『ねえ関谷くん、この映画のここ良く分からないんだけど教えて?』とか言って、ジュースこぼしたフリでも何でもして絶対に席から離さない!
関谷くんの意識は私が責任を持って引きつけるから、達也くんは何も心配しないで桜ちゃんと向き合ってきて!」
郁美は俺と桜の本当の気持ちを繋ぐために、自分ができる最大限の役割を果たそうとしてくれている。
そのまっすぐな瞳に、俺の胸は熱くなった。
「そっか……。
それなら、関谷に邪魔される心配もなさそうだな。
よし、じゃあその作戦で行こうか!」
「うん!」
俺が力強く同意すると、郁美は、パッと花が咲くような晴れやかな笑顔で頷いてくれた。
これで、明日関谷と桜を迎えるためのメイン作戦まで完璧に組み上がった。
作戦の骨組みが固まり、胸の仕えが下りた俺たちは、下見のため例のパンケーキ屋さんを目指して歩を進めた。
多摩センター駅からの賑やかな通りを抜け、目的のカフェの前に到着する。
白を基調としたナチュラルでお洒落な外観の店舗で、大きなガラス窓からは店内の温かな照明と賑わいがよく見えた。




