クリスマスイブ⑦
ふと壁の柱時計に目をやると、時刻はちょうど午前9時55分。
俺は玄関へ向かい、厚手のコートを羽織ってマフラーを首に巻き直した。
鍵を手に取って外へ踏み出すと、ピリッとした12月特有の乾いた冷気が一気に頬を刺し、頭をシャキッと冴えわたらせる。
「結構、寒くなってきたな……!」
「本当だね…!」
白く吐き出す息と一緒に、郁美が隣で嬉しそうに微笑む。
カチャリとドアの鍵を締め、俺たちは色とりどりのクリスマスムードに染まり始めた街へと繰り出した。
クリスマスツリーやイルミネーションの飾りがそこかしこに飾られた街並みを歩きながら、俺は並んで歩く郁美へと視線を向けた。
「まずは明日のデートプランからだな。
郁美、何か『ここに行きたい』とかあるのか?」
「うーん、そうだなー……」
郁美はあごに人差し指をあてて、首をひねる。
「まずは最近、多摩センター駅の近くにすごく美味しいパンケーキ屋さんが出来たから、そこに行くのはどうかな?」
「パンケーキか!
いいな、それ。」
「でしょ!
お店もお洒落だし、甘いものなら会話も弾むと思うんだよね。
……それで、美味しいパンケーキを食べた後はー、多摩センターのモールでお買い物とか、絶対楽しそう!」
ぱっと顔を輝かせながら、郁美は指を折って身乗り出すようにプランを語る。
昨夜までの悲壮感は嘘のように消え去り、まるで本当のデートを心待ちにする普通の女子高生みたいな無邪気さだった。
「ふふ、確かに」
「……あ!
んもー、達也くん、なんで笑ってるのー?」
俺の口元から漏れた小さな笑い声に気づいた郁美が、ぴくっと眉をひそめると、ぷくーっと頬を膨らませて少し拗ねたような、怒ったような顔で詰め寄ってきた。
上目遣いでジト目を向けてくるその姿は、本人は怒っているつもりかもしれないが、全く怖くないどころか小動物のようで可愛らしさしかない。
「ごめんごめん!
郁美があまりにも楽しそうに話してるから、つい……」
「んーー怒!
じゃあ、達也くんはどこか行きたい所とかあるの?」
「俺?
俺はそうだなー……
ベタに映画館とかかな?」
俺の言葉に、郁美はパッと顔を輝かせた。
「え!
いいね! 映画館!
そういえば、最近すごく面白いって話題になってる映画あったよね!」
「まあ、一応向こうの好みもあるから相手方にも聞いてからだけど……
関谷たちも良さそうなら、それで決まりでいいかもな」
「パンケーキ食べて、買い物して、映画観て……
あとは、最後はイルミネーションを見ながら散歩して、どこかで夜ご飯食べて解散、って感じでどうかな?」
冬の多摩センターの街並みは、夕方になればパルテノン通りを中心に美しいイルミネーションの光で満たされる。
きらびやかな光と影が交差する夜の街。
デートの締めくくりとしては申し分ないコースだろう。




