クリスマスイブ⑤
「うん。
明日のデートコースを下見しておくのとか、どうかなって。
買い出しのついでに!」
確かに、明日のクリスマス当日はどこもかしこも激しい混雑が予想される。
どのタイミングで郁美と関谷から離れて、どの場所なら桜と不自然にならずに二人きりになれるのか。
事前に綿密な作戦を立てておくに越したことはない。
「……確かに、事前準備は大事だな。
どこで二人きりになれるか、下調べしておいた方が確実だ」
「でしょ?
ぶっつけ本番で失敗したら大変だし!」
俺が同意すると、郁美は嬉しそうにパッと表情を輝かせた。
「よし、じゃあ10時頃に家を出るから、それまでに準備しといてくれ。
……あ、そういえばさ、肝心の関谷の方はダブルデートの誘い、オッケーしてくれたのか?」
「うん!
昨日の夜、私からLINEで連絡したら『行く行く! 超行きたい!』って即レスでOKだったよ」
「……そうか」
関谷の軽薄でノリノリな返答が目に浮かび、俺は胸の奥で苦苦しい感情を噛み殺した。
関谷の奴、郁美からの誘いに鼻の下を伸ばして飛びついてきたのだろう。
浮かれている姿が容易に想像できた。
「昨日の今日で急な誘いだったけど、乗ってくれてよかったよ。
……じゃあ、しっかり明日のデートプランを組み立てなくちゃな」
「うん!」
郁美もまた、過去の罪を贖うような、固い決意の籠もった瞳で力強く頷いてくれた。
そう言って俺たちは各々、10時の出発に向けて出かける準備を始めた。
準備といっても、男の俺がすることなんて知れている。
鏡の前で水をつけて寝癖を直し、歯を磨いて顔を洗い、ハンガーから取ったアウターと普段着をサッと引っかけるくらいだ。
5分もあれば身支度なんてあっけなく終わってしまう。
2階からは、郁美が服を選んだり身だしなみを整えたりしている気配がかすかに聞こえてくる。
女の子の準備には時間がかかるものだし、焦らせるのも悪い。
俺はパパっと自分の身支度を済ませると、1階のリビングに戻ってソファーに深く腰掛け、くつろぐことにした。
その時、ふとポケットの中のスマホが微かに震えていたことを思い出した。
昨夜から今朝にかけて怒涛の展開続きで、まともに確認できていなかったメッセージがあったのだ。
スマホの画面を開くと、トークアプリの通知に一人の名前が浮かんでいた。
送り主は、和政だった。
メッセージを開くと、和政らしい律儀で気遣いに満ちた文章が目に飛び込んできた。
『達也くん、郁美ちゃんの件、上手くいった……?
何か手伝えることがあったら、言ってね!』
自分自身も大変な時期だろうに、俺や郁美のことを最後まで気にかけてくれているその優しさが、疲れ切った心にじんわりと温かく染み渡る。
和政がいなかったら、俺はもっと早い段階で潰れていたかもしれない。




