クリスマスイブ②
『続いてのニュースです。
昨日未明、多摩川河川敷の緑地付近におきまして、通行人の女性を狙った婦女暴行事件が発生しました。
警察によりますと、犯人の男は現場から逃走しており、現在も警察が周辺の防犯カメラの映像を解析するなどして行方を追っています——』
画面には、警察の黄色い規制線が張られた、見覚えのある多摩川沿いの薄暗い景色の映像が映し出されていた。
ニュースの音声を聞きながら、俺はふと手を止め、テレビの画面を見つめた。
(……ん?)
胸の奥で、カチリと小さな違和感が跳ねた。
多摩川付近で起きた、夜間の女性を狙った暴行事件。
犯人の逃走。
そのキーワードの連なりに、なぜか強烈な既視感——デジャブのような引っかかりを覚える。
どこかで、似たような事件の話を聞いたことがあっただろうか。
いや、話を聞いたどころか、もっと直接的に……何かヤバい奴に遭遇したような、得体の知れない胸騒ぎが胸の底から湧き上がってくる。
脳裏の霧を払おうと必死に記憶の引き出しを漁ってみるが、どれだけ思い出そうとしても指先から滑り落ちるように手応えがない。
先週や先々週の出来事のはずなのに、そこだけすっぽりと穴が空いたように何も思い出せなかった。
(……気のせい、か)
頭を振って、俺は思考を打ち切った。
連日の精神的なストレスと寝不足のせいで、脳が変な勘違いをしているだけかもしれない。
しかし、犯人がまだ捕まっていないというのは単純に不気味だった。
この家からもそう遠くないエリアだ。
治安が良いと言われている日本だし、この街も普段はのどかだが、だからといっていつまでも安心していられる時代じゃないなと思う。
「……気をつけないとな」
誰にいうでもなく独りごとをいいながら、俺はテレビから目を逸らし、キッチンへと向かった。
冷蔵庫を開け、袋から食パンを一枚取り出す。
静まり返ったキッチンに、パン袋のシャカシャカというビニール音が小さく響いた。
食パンを皿に載せ、トースターの網の上にセットする。
ダイヤルをチチチと回すと、カチッと音がしてヒーターがぼんやりと赤く発光し始め、香ばしいパンの匂いが少しずつ漂い始めていった。
チン、と軽い音を立ててヒーターが消え、こんがりとキツネ色に焼けたトーストが焼き上がった。
バターナイフで表面に薄くバターを塗ると、熱でじわっと溶けて香ばしい匂いが立ち上る。
それを皿に載せてテーブルに運び、マグカップに注いだ温かい牛乳と一緒に、手早くお腹に収めていった。
(……にしても、買い出しには行かないとダメだな)
食事がひと段落したところで、俺は冷蔵庫の扉を開けて中を覗き込んだ。




