混乱
取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという激しい後悔と自責の念が、濁流のように胸の奥を侵食していった。
どれだけの時間が経っただろうか。
重い足取りで校舎を戻り、文化祭の片付けが始まりつつある体育館の舞台裏へと、俺は帰ってきた。
「おい、達也! 宮野は見つかったか!?」
パイプ椅子に座り、氷嚢で足首を冷やしていた木村が、俺の姿を見つけるなり必死の形相で声をかけてきた。
「……あぁ」
「どこにいたんだ?」
「……関谷と、一緒にいた」
俺の掠れた声に、木村が息を呑む。
「あいつら、付き合うことになったってさ。
俺が部屋に入った時……桜が、関谷とキスしてるのが見えた」
「……マジかよ」
木村は短くそう呟くと、まるで「やっぱりそうなったか」とでも言いたげに、残念そうにうつむいた。
その重い沈黙が、俺の罪悪感をさらに煽った。
その時だった。
すぐ横にある控室の扉の向こうから、取り乱した声が聞こえてきた。
「あぁ、嫌ぁっ……! 私、なんてことを……っ!!」
「……っ、郁美の声か!?」
木村と顔を見合わせ、俺は弾かれたように控室のドアを開け放った。
部屋の中では、数人の女子生徒が遠巻きに困惑した表情で見守る中、ジュリエットの衣装を着たままの郁美が、床に座り込んで激しく泣きじゃくっていた。
「郁美!」
俺が駆け寄り、その肩を掴むと、郁美は過呼吸気味に肩を上下させながら、涙でボロボロになった顔を俺に向けた。
「達也くん……どうしよう、どうしよう……っ!
私、頭が変だったの……!
桜ちゃんに、あんな酷いこと、私……私がいじめさせて、私が、学校で桜ちゃんの居場所を奪って……っ!!」
彼岸花の汁によって呪いが解けたことで、長い夢から覚めていくように、ぼやけていたここ1ヶ月の記憶が、うっすらと蘇り始めていた。
夢うつつの中で、自分が桜に対して行ってきた陰湿な仕打ちの数々を、少しずつ思い出していくような感覚。
その罪の重さに、郁美の精神は耐えかね、激しい自己嫌悪に苛まれながら取り乱していた。
「私……最低だ、違うの、私……っ!
桜ちゃんに謝らなきゃ……でも、私は、私は……っ!!」
狂いそうなほどの後悔に身をよじる郁美を、俺はただ強く抱きしめて、なだめることしかできなかった。
「郁美ちゃん、大丈夫?
劇の緊張が一気に切れて、動転しちゃったみたいだね」
「うん、あんな大役だったし無理もないよ。
……ほら、達也くん。
彼氏なんだから、今日はもう一緒に帰ってあげなよ」
事情を知らないクラスメイトたちから見れば、郁美の涙は、舞台を終えた緊張からの解放で少し気が動転してしまったように映ったらしい。
俺は「あぁ、そうだな。ごめん、あとの片付けは任せる」と誤魔化し、涙の止まらない郁美の肩を支えながら、逃げるように学校を後にした。




