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獄門ループ ―家族が消えた日―  作者: ダダ太郎


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201/249

開幕

納得しているわけじゃない。


それでも、これ以上引き留める言葉を探せないでいる顔だった。


しばらくの沈黙の後、木村はゆっくりと手を離した。


「……分かった。でも達也」


背中に、木村の声が刺さった。


「後で絶対に、ちゃんと説明しろよ」


俺は振り返らずに頷いた。


幕が上がるまで、あとわずかだった。


ブザーの音が体育館に鳴り響き、重い暗幕がゆっくりと上がっていく。


客席を埋め尽くす生徒たちのざわめきが、舞台を照らす強烈なスポットライトの光とともに、波が引くように静まり返った。


『ロミオとジュリエット』の幕が開いた。


急遽代役として舞台に立った俺だったが、家で幾度となく郁美の練習に付き合わされていたおかげで、セリフは嫌でも頭に入っていた。


スポットライトの熱を肌に感じながら、俺はまるで自分の体ではないような奇妙な浮遊感の中で、ロミオとしての立ち回りをこなしていく。


客席からの視線が突き刺さるが、俺の意識の半分は、常に自分のポケットの中にある『小瓶』の硬い感触に向けられていた。


劇は中盤へと差し掛かっていた。


舞台の中央、薄暗い照明の中。


俺の前に、一人の少女がふらふらと歩み出てくる。


ロミオの元恋人である、ロザライン役。


腕と脚に痛々しい包帯を巻き、足を引きずりながら現れた桜の姿に、客席から「おおっ……」と息を呑むような声が漏れた。


クラスでの立場を完全に失い、孤立無援の悪者として扱われている桜だが、それでも彼女が学年一の美女であるという事実に変わりはない。


むしろ、作り物ではない本物の悲しみと絶望によって生み出されたその『異様なほどの儚さ』は、観客たちの目を完全に釘付けにしていた。


誰もが、その痛ましいほどの美しさに魅了され、息を潜めている。


「ロミオ……待って。行かないで……っ」


桜が、俺の足元にすがりつくように崩れ落ちた。


俺の衣装の裾を握りしめるその手は、小刻みに、ひどく震えていた。


台本通りのセリフ。


だが、俺を見上げる桜の瞳には、役を演じる余裕など微塵もない。


そこにいるのは、ただただ幼馴染の少年に見捨てられ、心細さで限界を迎えている『宮野桜』そのものだった。


「私を……見捨てないで……っ」


かすれ、涙に濡れたその懇願は、間違いなく俺自身に向けられた本気のSOSのように思えた。


胸の奥が、ギリッと軋むような音を立てる。


だが――今の俺に、もう迷いはない。


この震える肩を抱きしめてやりたいという甘い感情は、すでに昨日、昇降口で桜を見捨てた時に切り捨ててきた。


俺は今日、郁美を元の姿に戻し、この狂った呪いの日常を終わらせる。


そのためなら、俺はどんな大悪党にでもなる。


その覚悟は、とっくに完了していた。


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