無言
そんなことを考えているうちに、
ようやく朝のホームルームの時間になり、
先生が教室に入ってきた。
教壇に立った先生は、
室内を一瞥した瞬間、
ぴたりと動きを止めた。
郁美の姿を視界に捉え、
目を見開いたまま、
口をぽかんと開けている。
「……ん? えーと……誰?」
明らかに状況を把握できていない様子だ。
俺は立ち上がり、
事情を説明しようと口を開いた。
「あ、この子はA組の――」
「達也くんの彼女です!!」
被せるように、
郁美が胸を張って断言した。
「……」
教室に、再び沈黙が落ちる。
先生は数秒ほど固まったあと、
こめかみを押さえながら言った。
「えー……達也くんの“彼女”が、
どうしてここにいるのかな?」
「達也くんの彼女だからです!!」
「うーん……それ、理由になってないんだけどな……」
先生は完全に困り切った様子で頭をかく。
「とりあえずね、A組の生徒なら、
自分の教室に戻ってもらえるかな?」
「嫌です!!
片時も離れたくありません!!」
バキッ。
不穏な音が、
教室の一角から響いた。
見ると、
関谷の手の中で鉛筆が無残に折れている。
彼は何も言わず、
折れた鉛筆を拾い上げた。
その無言の背中に、
俺は言いようのない恐怖を覚えた。
「そっかー……ちょっと待っててね」
そう言い残して、
担任の先生は教室を出ていった。
ざわつきかけた空気の中、
俺はただ机に座ったまま、
ただ待つしかなかった。




