おまけ3
意図せずセーリオとひとつ屋根の下で一晩過ごす事となった私はある野望を抱いていた。騎士団寮も似た様な状況ではあるが、それはそれ。要は気分の問題だ。
野望というのは、ずばり酔っ払い肯定マンの復活である。
告白事件によって飲み会を自粛していたが、現在は恋人同士なのだ。むしろどんどん聞かせてほしい欲が頭をもたげていた。
という訳で、後はぼちぼち寝ようかなという時機を見計らってセーリオが宿泊している部屋へと突入を果たした次第だ。
それなのに私が顔を出した途端、「こういう行為は結婚してから」だの「初めては大切にしたい」だのとセーリオが騒ぎ、どう思われたのかを私が察し、ソファで対面しながら赤い顔をつけ合わせているのが現状である。
「久しぶりの生家でお前が大いに浮かれている事はよく理解した……」
「ごめんて……」
とんだ痴女行為を働いてしまったと、今では深く反省をしている。だが後悔はしたくないので、持ってきたボトルをいそいそと開栓した。
けれども、セーリオの手でグラスの縁を覆われたために、ボトルを持ち上げたままで静止してしまう。
「お願いだセーリオ……」
「っ、なんと言われても飲まん。お前が満足するまで褒めてやるから我慢しろ」
「おお言ったな? 酔った時の君はすごいんだぞ、騎士団長になれとか、強くて格好良いとか。素面でもやれるっていうなら聞かせてもらおうじゃないか」
「照れ隠しで強気に振る舞うのは止めろ。子犬が威嚇するみたいで却って愛らしく見えるぞ」
「素面でそういう事を言わないでくれ!!」
「ではどうしろと言うんだ」
何故か言わされている当人の方が余裕そうにくつくつと笑っている。こちらは照れ臭さでむず痒くなっているというのに。
せめて私だけでも酒を入れさせてほしい。
もうボトルから直に飲んでやろうか。そう考え始めた時、セーリオが徐に口を開いた。
「……以前も伝えたが、騎士団長になったお前を支える事は俺の夢であり目標だ。お前はあまり真面に受け取ってないようだがな」
「それは……」
「それと先日心任せに口に出したお前の短所だが」
「褒めてくれるんじゃないのか?!」
「あれらはお前の長所でもある。沈着さや合理的な思考は勿論必要だ。だがそれだけでは後に続く者はいない。類稀な強さと情味に溢れるお前だから、同期達はその背を追いかけて進む。マリンだからこそ、俺は騎士としても憧れを抱いたんだ」
セーリオのこの言葉は、ひょっとすれば告白よりも鮮烈に、私の胸へと刺さったかもしれない。
団長になれと請われる度、「できればな」と躱していた自分が恥ずかしい、初めてそう思った。
「ありがとう、セーリオ」
「酒が無くとも伝えられる事を証明したかっただけだ」
「……おや、目元に何か付いているよ? 取るから目を瞑ってて」
昼間の出来事を想起したのか、彼はため息をついてからゆっくりと瞼をおろす。
こうして無防備な姿になるのも、私が相手だからと思うと少し面映い。けれど、あまり待たせるのもよろしくないだろう。
そうして頤に手を添え、私はそっと口づけをした。
…………彼の頰に。
「……マリン」
「か、感謝の印ってやつだ……おやすみ! 酒はあげる!」
動揺して部屋から逃げ出した私は、この時の行動を深く悔やむ事になるとは考えもしなかった。
最後にボトル一本押し付けたせいで、どこまでが現実だったのか判別が付かなくなる程にセーリオが酔ってしまったのだから……。
以上でおまけも完結です。読んでくださりありがとうございました。




