第8話
X(旧Twitter)ヤッテマス
@towachi315
「では、準備が整うまでそのままそこで待機していなまへ。上の連中は先ほどの『厄介な闖入者』のせいでまだてんてこ舞いだからね。……あ、そうそう、過剰に怯える必要はない。能力を引き上げると言っても、あくまで肉体と神経を補助するバイオ・スーツの類いだ。せいぜい、あとで尋常じゃない全身の筋肉痛に襲われるくらいのものでね、スーツ自体で死ぬような危険は一切ないさ」
冷徹な笑みを残し、武装兵を引き連れて地下牢から去り際、男はふっと片隅で笑った。
「――おっと、付け加えておこうか。スーツに命の危険はないが……それを包む『カタシロ』の方は、話が別だ。なにせ一歩間違えばスクラップの棺桶だからね。せいぜい、次の命令までの命を大切にたまえ。私はボリス・スチュアート。この施設の最高指揮官だ」
ガチャリ、と重い装甲扉が再び閉じられ、室内に冷たいロック音が響く。
「……ふざけんなよ、スーツにリスクがなくてもロボット自体が危ねぇってことじゃねぇか……!」
扉が完全に閉まった瞬間、クラスメイトの一人が崩れ落ちるように頭を抱えた。 静まり返っていた地下牢に、一気に絶望的なざわめきが広がる。あの戦場のど真ん中から奇跡的に全員生存でここまで辿り着いたものの、ここで大きな問題があった。
(……クラスの総人数は僕を含めて31人。そこから不破が脱走した分を差し引くと……残りは僕を含めて30人、か)
頭の中で素早く人数を計算し、響は小さく舌うちした。不破が抜けた穴はあまりにも大きく、そして厄介だった。
混乱の中、いつの間にかこの状況を受け入れ、あるいはそれぞれの持ち味を発揮して動き始めている主要なメンバーたちが、響の周りに集まってきた。
「くよくよしてても始まらないわよ。ボリスとかいう軍のオッサンが言ってた『カタシロ』ってやつ? 要はあれをぶん回して生き残ればいいんでしょ。筋肉痛だけで済むならマシな方じゃない」
そうハキハキと言い放ったのは、ボーイッシュなショートカットが眩しい陸上部の片桐 結衣だ。すでに腕まくりをして身体をほぐしており、極限状態でも肝が据わっている。
「そういう問題ではありません、片桐さん。私たちは不法侵入者であり、かつ人質です。スーツの安全性がどうであれ、感情論で乗り切れるほど甘い状況ではないかと」
黒髪のロングヘアを揺らし、冷ややかな美貌をさらに引き締めながら指摘したのは、弓道部の松前 神子だった。声にはわずかな震えがあるものの、その眼光には武道家らしい鋭い意志が宿っている。
「む、無理だよ……ロボットなんて乗れないよ……絶対スクラップにされる……僕、絶対に嫌だ……」
その横で、青い顔をしてガタガタと震えながら縮こまっているのは、日頃から気弱な男子生徒の久慈 正雄だ。
そして、その少し離れた暗がりで、誰とも目を合わせずにうつむきながら、ブツブツと呟いている影のあるオタク気質な男子――佐藤 凱が異様なオーラを放っていた。
「……フッ、軍の生体インナーは安全でも、乗機がデスゲーム仕様ってか……これだから現実のハードモードは読めねえな……」
さらに、その傍らで丸メガネをくいっと押し上げ、びっしりとスケッチブックに何か描き込みながら呟く女子がいた。おさげ髪を揺らす美術部の麦稾 千歳だ。
「……ねえ、さっきから描いてるんだけどあのカタシロって言う機動兵器の装甲ライン、すっごく無骨でディテールがたまらないよね……。あそこに弾痕をこう、リアルに描き込んだら映えそうじゃない?」
「いや、死地に行くんだから映えとか求めてないからね!?」
クラスの女子たちの喧騒、怯える男子、そしてどこか電波な呟きやマイペースすぎる芸術肌。 相変わらずの悪夢のようなカオスっぷりに、響は思わずこめかみを押さえて深い溜息をついた。
(……おいおい、不破が勝手にいなくなった穴埋めがこれかよ。この30人を率いて、あの戦場を生き延びろって言うのか……!)
女装の予定もコスメのチェックも遠ざかる一方の地獄のような状況で、響は最悪のチームを率いた作戦会議を始めざるを得ないのであった。
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