第5話
X(旧Twitter)ヤッテマス
@towachi315
けたたましい警報音が鳴り響く地下収容施設。
鉄格子にしがみつき、嫌な予感に冷や汗を流していた僕の目の前で――突如として、その「予感」が最悪の形となって現れた。
「……いたぞ、ここだ」
低く、不機嫌そうな声とともに、重厚な鉄の扉がまるで厚紙のように内側へとひしゃげた。
バキリ、と耳障りな金属音が響き、ロックが外れた扉が派手に吹き飛ぶ。そこに立っていたのは、返り血こそ浴びていないものの、全身から底知れない殺気と澱んだ黒いエネルギーを立ち上らせた不破覇道だった。
「ふ、不破……っ!?」
「おまっ、なんでここに……!」
クラスメイトたちが恐怖に引きつった声をあげる。
不破はそんな周囲の反応など一切無視して、鬱陶しそうに右腕をぶらりと揺すった。その右手は、相変わらず不気味な明滅を繰り返している。
「うるせぇな。こんなガラクタの檻、さっさと開けるぞ」
不破が電子ロックのパネルに手を触れた瞬間、彼の右腕からバチッと放たれた微弱な電気によって、収容施設のすべての扉が一斉に「カチャリ」と軽い音を立てて解錠された。
これで、僕たちを縛り付けていた檻は完全に消え去ったのだ。
「ほら、さっさと出ろ。俺はこんなところで足止め食らう趣味はねぇんだよ」
不破はそれだけ言うと、背筋を凍らせるような冷徹な笑みを浮かべ、身を翻そうとした。
しかし、僕は開け放たれた扉の向こうに一歩踏み出すことができず、その場に踏み止まった。
「……ちょっと待って、不破」
「んだよ、御統。お前も早く来ねぇと、後から面倒なのが来っぞ」
振り返った不破の視線を受け止めながら、僕は背後にいるクラスメイトたちをそっと見渡した。
震え上がり、お互いにしがみ合って立つことすらままならないクラスの連中。彼らを置いて、僕だけがこの暴力的な天才と一緒に脱走したとして――その後、この見知らぬ戦場で生き延びられる人間が何人いるだろうか。
不破には目的(あるいは我が道を行く狂気)があるらしいけれど、僕には「クラスの人間をここで見捨てる」という選択肢がどうしても選べなかった。
「僕は……ここに残るよ」
「は……? 何言ってんだ、お前」
不破が眉をひそめ、呆れたような、あるいは信じられないものを見るような目を向ける。
「僕までいなくなったら、この子たちは完全に詰むんだよ。それに、君みたいに軍のシステムを破壊して回るような真似は僕にはできない。……ここで国連軍と交渉するか、別の方法を探す方が僕らしいしね」
本当は、週末の女装の予定を諦めきれないのと、こんな狂った暴走に巻き込まれて命を落としたくないというのが本音だ。だけど、ここで見捨てるのは僕のプライドが許さなかった。
不破はしばらくじっと僕の顔を見つめていたが、やがて「勝手にしろよ、めんどくせぇ」と吐き捨てて鼻を鳴らした。
「――まあいい。どうせ、お前が来なくても俺の『第2のプラン』には支障ねぇからな」
「……第2のプラン?」
不破が不敵に笑い、自分の右腕を天井のメインフレームの配線めがけて叩き込んだ。
次の瞬間、けたたましい警報音が一段と高くなり、収容施設の頑丈な自動防壁が、ギシリと重い音を立てて上下から猛烈な勢いで閉まり始めた。
「なっ……! なんだこれ、閉まるぞ!?」
「おい、嘘だろ!? 出られないっ!」
クラスメイトたちがパニックになって叫び声をあげる。
ガシャアアアアン!! と凄まじい地響きとともに、収容施設を外界から完全に遮断する厚い装甲扉が完全にロックされた。
「な、なにをしてるんだ不破! 僕たちまで閉じ込めてどうする気だ!」
閉ざされた頑丈な鉄板を叩きながら叫ぶ僕に、向こう側にいるはずの不破の声が、通信端末を通して冷たく響いてきた。
『安心しろ。お前らが追っ払いに囲まれて蜂の巣にされるより、この堅牢な地下牢に立てこもってた方が生存確率は数倍マシだ。――それと、俺を追ってきた国連軍の兵士どもも、まとめてこの区画ごと隔離させてもらった』
「っ……僕たちごと閉じ込める気かよ!」
『知るか。俺は俺の道をいく。じゃあな、優男』
通信が一方的にプツリと途切れる。
静まり返った地下牢のなか、残された僕たちは、閉じ込められた絶望と、置いていかれ呆然と佇む中で、ただただ固まるしかなかった――。




