第32話
基地へ戻る輸送隊の中。疲労と精神的な消耗の限界で、誰もが押し黙っていた。窓の外の遠ざかる戦場には、まだ黒煙が上がっている。――俺たちは、本当に生き残ったんだ。そう実感する響の耳に、向かいに座るバアル教官の声が届いた。
『寝ろ』
『……え? 疲れてはいますけど、その……』
『教官命令だ』
有無を言わせぬ声音に、響はわずかに苦笑して「……はい」と目を閉じた。張り詰めていた糸が切れ、急激な眠気が襲う。周囲のクラスメイトたちも、次々と安堵に似た眠りへと落ちていく。
傷つき、疲れ果てた生徒たちをバアルは静かに見渡し、小さく呟いた。
『……上出来だ』
輸送隊は本部へ向けて足を進める。戦いは終わった。だが、彼らにとってこれは始まりに過ぎない。今日という一日を越えたことで、響たちは知ったのだ。自分たちが立っている場所が、もはや安全な訓練場などではないという現実を。
カタシロの操縦席から降りたときとは、世界の見え方が違っていた。恐怖も、絶望も、そして微かな手応えも、すべてが彼らの血肉となって刻まれていく。冷たい機内の空気に包まれながら、響の脳裏には先ほどの戦闘の残響がこだましていた。敵の圧倒的な出力、機体が軋む音、そして仲間たちの呼吸。それらすべてが、自分がこの過酷な戦場を生き抜いたという動かぬ証拠だった。
「……次は、もっとうまくやってみせるさ」
誰に聞かせるでもなく、響は小さな呟きを飲み込んだ。輸送隊はすっかりと暗くなった夜の闇を切り裂くように、確かな光を放つ本部へと着実に歩みを進めていく。それぞれの胸に新たな覚悟と傷跡を抱えたまま、彼らは明日への帰路についていた。




