第31話
ガキィンッ!!
鋭い金属音が、煙に包まれた戦場を震わせた。敵エース機の振り下ろしたブレードは、バアルのヤマトによって完全に受け止められて───斬られた
『な――』
通信越しに震える敵パイロットの声に、バアルは答えない。赤く輝くカメラアイが冷徹に獲物を捉える。
『……武器が一つ減ったな』
『貴様……!』
後退する敵機を追って、ヤマトの巨体が地面を蹴る。爆ぜる土煙。その巨体からは信じられないほどの滑らかな踏み込みから繰り出された拳が、敵機の胸部装甲へと叩き込まれた。
『……馬鹿な……この私が……』
途絶える通信。バアルは周囲を見渡す。そこには停止した敵機や味方機の残骸、そしてその間を縫うように生き延びた響たちの姿があった。
『教官! 敵の動きが止まりました!』
通信に飛び込んできた響の声に、バアルは「見れば分かる」といつもの無愛想を返す。だが、その声の続きは、彼らにとって予想外の響きを持っていた。
『――全員、よくやった』
通信が静まり返る。戦場に出てから浴びせられたのは、遅い、甘い、死ぬぞ、といった叱責ばかりだった。だからこそ、たった一言の「よくやった」が、疲弊した彼らの胸に深く突き刺さる。
『……教官』
『勘違いするな。まだ終わっていない』
バアルの低く響く声が、再び彼らの意識を引き締める。
『今回、お前たちは生き残った。それだけでも十分な成果だ。だが、生き残ったことに満足するな。今日の敵は、お前たちより強かった。それでも逃げなかった。ならば次は、勝て』
『……はい!』
『返事だけは一人前だな。だが、それでいい。悔しいと思えるなら、まだ伸びる。今日の戦闘で何ができなかったのか、そして――今日、お前たちが成したことも忘れるな』
失敗だけを覚えるな、自分が成し遂げたことを理解しろ。その教えに、響は胸の奥が熱くなるのを感じた。
『……教官、ありがとうございました』
『礼を言う暇があるなら歩け。それと――今日はよくやった』
『はいっ!』
重なる複数の返事を聞きながら、バアルは小さく息を吐いた。指揮系統の崩壊した戦場にこれ以上留まる理由はない。
「全機、戦闘を終了する。負傷者を優先して回収、損傷機は牽引しろ――本部へ戻るぞ」
ヤマトが歩き出し、響たちもそれに続く。軽口を叩く余裕はないが、その歩みは戦場へ降り立った時よりも明らかに力強かった。




