第33話
輸送隊が深い夜の闇を抜け、臨時本部のゲートをくぐったときには、空の白み始めが水平線を染めつつあった。
ギィィ……と重苦しい音を立てて輸送隊のハッチが開き、冷徹な夜気とともに、疲弊しきった生徒たちが次々と地面に降り立つ。
「……着いたぞ。お前ら、這ってでも個人の居住区画へ戻れ。今日はもう訓練も整備も免除だ」
バアル教官の乾いた声が、静まり返ったコンクリートの床に響く。
生徒たちは返事をする気力すら失っているのか、ただ足を引きずるようにしてそれぞれの部屋へと散らばっていった。
響もまた、自分の体にこびりついた硝煙と乾いた汗の匂いを引きずりながら、指定された仮設の個室へとたどり着く。
ガチャリ、と扉の鍵を閉めた瞬間、これほど安心感をもたらす空間がこの世にあっただろうかと、響はそのまま床に崩れ落ちそうになった。
(ふぅ……、どうにか、生き残ったんだ……)
緊張の糸が完全に切れたことで、今度は全身の関節が軋むような痛みを訴え始める。
しかし、戦闘前の「ただの一般生徒だった自分」には、もう戻れないという強烈な予感が胸の奥にこびりついて離れなかった。
恐怖に震えながら操縦桿を握った手のひらには、まだ消えない生体接続の熱が残っている。
そのとき、ふと、部屋の隅の暗がりから微かな物音がした。
「……遅かったじゃない、響くん」
月明かりだけが差し込む窓際に腰掛けていたのは、金髪のツインテールを揺らすアンネローゼだった。
彼女は手元のタブレット端末を軽く放り投げ、冷ややかな、しかしどこか楽しげな青い瞳を響に向ける。
「まさか、初めての実戦であの重装甲型本隊を相手に、私のオモチャを最後まで使い切るなんてね。……少しは見直したわよ、凡人にしては上出来な実験台ね」
いつもの嫌味な物言いではあるが、その裏で彼女の端末には、さきほどの戦いで得られた膨大な戦闘データがしっかりと保存されている。
響は苦笑を浮かべ、泥だらけのブーツを脱ぎ捨てながらベッドへと腰掛けた。
「褒められてるのか貶されてるのか分からないな、アンネローゼ……。みんなは無事なのか?」
「さあね。新島たちは今頃、焼き付いた回路の修理で発狂してる頃かしら。あ、そうそう……観測所には来なかったけど、影山くんはすでに次の偵察へ動いているみたいよ」
アンネローゼが窓の外――基地の外縁部へと視線を投げる。
空の向こう、かつての日常をブチ壊したあの巨大な正八面体はこの世界には存在していないみたいだが、その代わりに月が不気味な沈黙を保ったまま、冷たく世界を見下ろしているように見えた。
戦いは終わったのではなく、ようやくその全貌が見え始めたに過ぎない。
しかし、響の胸にあるのは絶望だけではなかった。
後方から支えてくれた神子の狙撃、裏で糸を引くアンネローゼの狂気的な技術、そして前線で背中を守り抜いた仲間たちの存在。
響は自身の両手をゆっくりと握りしめ、静かに呟いた。
「……明日も、生き残ってみせるさ」
過酷な運命の歯車が回り続ける中、少年少女たちのサバイバルは、確かな絆を孕みながら次の夜明けへと突入していくのだった。




