第28話
「ふふ、いいわよ。その意気を見せてちょうだい、影山くん」
アンネローゼは金髪をふわりと揺らし、あどけない少女の笑みを浮かべたまま、タブレットの画面を鮮やかな手つきで弾いた。
その青い瞳に宿る冷酷な光は、まるで新しい玩具を手に入れた子供のように嬉々として輝いている。
『痺れ薬散布型パルス弾』の充填完了を示す青白いインジケーターが、彼女の手元で規則正しく点滅を始めた。
車椅子に乗った麗華は、優雅に紅茶のカップを傾けながら、その様子を冷めた目で眺める。
「アンネローゼ、あまりお遊びに夢中になって、こちらの防衛線まで突破されるような真似は許しませんよ。……ねぇ、兵藤?」
「はっ。お嬢様のご懸念もごもっとまでございます。ですが、あの影山君の潜行スキルと、アンネローゼ様の特殊弾薬のコンビネーションであれば、敵の指揮系統を内部から崩壊させるのは容易かと」
傍らに控える兵藤は、恭しい態度を崩さぬまま、静かに戦場のモニターへと視線を向けた。
その巨体から発せられる無言のプレッシャーは、観測所全体に確かな重みを与えている。
科学部部長の新島は、頭を抱えながらそのやり取りを横目で見つめていた。
「おいおい、勝手に俺たちの制御システムに干渉して、あんな危険な薬品を組み込むなよ……! 暴発したら基地ごと吹っ飛ぶぞ!」
「うるさいわね、新島くん。凡人のあなたたちでは思いつかない最高のチューニングをしてあげているのよ。感謝しなさい?」
アンネローゼが小悪魔的に舌をペロリと出して笑うと、新島はもはや言い返す気力もないといった様子で深くため息をついた。
そんな喧騒のなか、影山忍はすでに観測所の影に溶け込むように佇んでいた。
彼の気配は、周囲の人間が意識を向けなければ、まるで最初から存在していなかったかのように希薄だった。
影山は腰に携えた特殊刀の柄にそっと手を置き、冷徹に呟く。
「……痺れ薬で動きが鈍った瞬間、奴らの装甲の継ぎ目に一撃を叩き込む。合図はそっちの機体が発砲した時だ」
「了解よ。……それじゃあ、可愛い私のオモチャたち、盛大に暴れておいで?」
アンネローゼの甘い呟きと同時に、基地の最奥から放たれた特殊なパルス弾が、重装甲型本隊の頭上で鮮やかに炸裂した。
閃光と猛烈な麻痺磁場が敵の巨大な機体を包み込み、その巨躯の動きがピタリと停止する。
――今だ。
影山の姿がかき消えるように消え失せ、戦場はさらなる混沌と、それぞれの思惑が交錯する激動の渦へと突入していくのだった。




