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神蝕のOctahedron  作者: あさなぎ とわ


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第21話

X(旧Twitter)ヤッテマス

@towachi315

――それは、すべての悪夢が始まった「適性試験」の日のことだった。


施設の一角に押し込められた生徒たちのなかで、本来ならば松前神子は、最前線に駆り出される「戦闘員」の一人として選別されていたはずだった。

彼女が所持する身体能力の適性値、そして武道で鍛え上げられた神経反射速度は、軍の基準においても上位に位置していたからだ。


しかし、適性試験の直前、神子は自らその配置を覆した。


最高指揮官であるボリス・スチュアートへ直接、進言を行ったのだ。


「数合わせの駒として前線に放り込まれるのは戦術的合理性に欠ける。むしろ、非戦闘員たちが後方から安全に運用するための特化型モジュールを開発し、私がそのテストパイロットとして実証データを取るべきだ」と。


その冷徹なまでの損得勘定と、自ら危険な実験機に跨る覚悟を買われ、彼女は例外的に「非戦闘・開発部門のテストパイロット」という特例のポジションを獲得したのだった。


その結果として、彼女が送り込まれたのは、非戦闘員の生徒たちや裏方の修理・整備要員たちが集められた地下深くに広がる巨大なドックだった。


天井の配管からは高圧の蒸気が規則正しく噴き出し、空気には絶えずオゾンと冷却液の匂いが満ちている。そこに次々と前線から運び込まれるのは、半壊し、内部の回路が焼き切れた量産型カタシロの残骸――文字通りの「鉄の棺桶」ばかりだった。


「おい、そこのガキども! ぼさっと突っ立てるな! 腕の駆動系パーツが焼き付いてやがる、さっさと予備フレームと交換しろ! 溶接のビードが甘いぞ、そんなんじゃ次の出撃で秒速でひしゃげやがる!」


元からこの施設に所属する、荒くれ者のベテラン軍属エンジニアたちが怒鳴り声を飛ばす。


その怒号と、金属を叩く重く乾いた音がドック全体に反響していた。生徒たちは青い顔をしながらも、命からがら逃げ延びた恐怖を引きずったまま、必死に工具を動かしている。


だが、その殺伐とした整備ドックの片隅――防護壁の陰に隠された端末ルームの一角で、全く異なる目的のために水面下で動いている一団がいた。


冷ややかな美貌を湛えた松前神子。そして、本来は別の区画に配置されていたはずなのに、いつの間にかその場に紛れ込んでいた、不敵な笑みを浮かべる影山。さらに、冷徹に状況を分析するアンネローゼの姿があった。


「……前線の連中がどれだけ足掻こうが、このままじゃ機体の消耗に補充が追いつかずに、数日で全滅よ。近接戦闘を強いられる今の仕様じゃ、どう足掻いても勝てないわ。だからこそ、私が乗るテスト機で長距離狙撃モジュールの限界データを実証する」


神子が手元の端末に投影されたカタシロの内部構造図を指し示す。そこには、標準装備されている近接〜中距離用の火器管制システムの致命的な欠陥が赤くハイライトされていた。


素人が乗ることを全く考慮されていない、使い捨ての突撃仕様。それをこのまま使えば、クラスの仲間たちは確実に全員、生きたままスクラップにされる。


その時、ちょうど通りかかった初老のベテラン軍属エンジニアが、神子の画面を覗き込み、眉間に深いしわを寄せた。


「おまっ……テストパイロットを志願したガキだな。勝手に機体の改修データをいじってやがるのか? 失敗すれば、お前の神経が焼き切れるだけじゃ済まねえぞ」


警告する巨漢のエンジニアに対し、アンネローゼは微塵も動じず、冷ややかに鼻で笑ってみせた。


「おじさん、怒鳴る前に現実を見たら? あなたたちがいくら必死にこのスクラップどもを直したって、パイロットの腕が素人じゃあしたの戦闘でまた同じようにゴミの山になって戻ってくるだけよ。毎日徹夜で黒焦げの鉄板を拭うのがそんなに趣味なの?」


「くっ……!」


図星を突かれたベテランエンジニアが言葉を詰まらせた瞬間、影山がニヤリと不敵な笑みを浮かべてトドメを刺した。


「そういうことだ。俺たちが作るのは、前線の消耗戦から完全に外れた『安全圏からの一方的な排除システム』だ。彼女がそのテスト機に乗ってデータを取る。あんたたちの技術力と、俺たちの改造データを合わせりゃ、面白いものが組めるはずだぜ。……乗るか? それとも、明日も俺たちにガラクタを直させ続けるかよ」


しばらくの沈黙の後、ベテランエンジニアは低く唸り声を上げると、ふっと呆れたような、しかしどこか面白がるような歪んだ笑みを浮かべてみせた。


「……チッ、テストパイロットを盾にしてとんでもねえ暴挙を持ち出しやがる。だが、言われてみればその通りだ。どうせ明日は死ぬかもしれない的を毎日磨かされるよりは、一発逆転の牙を仕込むほうが生意気なガキの相手としてはマシか」


その一言を皮切りに、ドックの一角で奇妙な共同戦線が幕を開けた。

非戦闘員の生徒たちが地道な実務とパーツの選定を支え、元からいた現場の軍人・エンジニアたちがプロの技術で無理難題な配線や冷却システムをねじ伏せていく。


神子の圧倒的な射撃理論と精密な弾道計算。それをベースに、アンネローゼが物理的・構造的な耐久限界を冷徹なまでに算出し、影山が軍のネットワーク裏ルートからかき集めた非公式の制御チップを精密に組み込んでいく。


「待って、計算上は完璧だけど、このままじゃ超長距離の反動と熱量にフレームが耐えきれないわ。テスト飛行の段階で銃身が自壊する」


アンネローゼの指摘に、ベテランエンジニアが自身の工具入れから特製の高出力冷却パーツを放り投げた。


「いいだろうよ! どうせテストで使うのは一歩間違えば棺桶だ、派手にやれ! ただし、フレームに負荷をかけすぎて自壊したら、その時はお前らごとスクラップにしてやるからな!」


そこからは、まさに極限の突貫工事だった。

科学部をはじめとする生徒たちが寝る間も惜しんで配線をハンダ付けし、軍のプロたちが重厚なフレームの溶接を補強していく。誰もが自分の生存のため、そしてこの理不尽な構造への小さな反逆として、その作業に没頭した。


そして、過酷な適性試験の裏側で、その「牙」は密かに完成した。


前線の恐怖を完全に無効化する、超長距離狙撃特化型モジュール。命を賭したテストパイロットの座席で、神子は静かにその起動スイッチに手をかけたのだった。


続きが気になる方は高評価お願いシマス!!!

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