第14話
X(旧Twitter)ヤッテマス
@towachi315
「――っはあ……! 無理無理無理、絶対ムリですってこんなの! 脳みそがジューッて焼け焦げる音がしましたもん!」
格納庫の隅、バイオ・スーツの強制排除バルブがプシューと白煙を上げる中、麦藁千歳は両手で頭を抱え、文字通り床にへたり込んでいた。
エキセントリックな芸術気質で、分厚い眼鏡を押し上げながら荒い息をつく彼女の周りには、同じように適性試練をリタイアした者たちが集まっている。
総勢30人のクラスメイトのうち、響や結衣のように何とか適性をクリアした者たちがいる一方で、身体的あるいは神経的な負荷、あるいは「拒絶」によってスーツの装着を弾かれた者が10人いた。
「まったくだ。神経同調率が許容値を一桁も下回っている。この旧式かつ泥臭い生体端末のメカニズムを解析する価値はあるが……こんな命知らずの棺桶に我が身を委ねるなど、理性の欠片もない愚行だな」
そうクールに眼鏡を押し上げたのは、科学部部長の新島孝介だ。
彼の後ろには、同じく試練を早々に放棄した4人の科学部員たちが控えており、早くもカタシロの駆動基部を興味深そうに観察し始めている。軍の兵器というよりは、格好の「面白そうな研究対象」を見つけたという面持ちだ。
その少し離れた場所では、車椅子にゆったりと身を預けた少女が、優雅に紅茶をすする真似事をしていた。
「あらあら、新島くん。そんなに鼻息を荒くして、あんな鉄屑の解析に夢中になっていてどうするの? 私たちは『戦えないお荷物』として、さっさと地下牢へお帰りいただくか、あるいは便利な雑用係にでも格下げされるのがオチよ」
冷徹なまでの頭脳の回転を見せるお嬢様、院庄麗華だ。彼女が涼しげな笑みを浮かべると、その車椅子の後ろにピタリと控え、まるで鋼鉄の彫像のように微動だにしない巨漢のクラスメイト――兵藤兼丸が鋭い視線を周囲に走らせた。麗華は戦闘こそ不可能だが、その怜悧な頭脳と、彼女に絶対の忠誠を誓う兵藤の圧倒的な体躯は、この過酷な状況において響とはまた異なる危険な武器になり得る。
「ふん、カタシロなんて時代遅れのスクラップに乗らなくたって、アタシの可愛いオモチャさえあれば、あんな連中まとめて吹き飛ばせるのにねー」
コロコロと愛らしい鈴を転がすような声でそう呟いたのは、金髪のツインテールを揺らす小さな少女――ドイツと日本のハーフである帰国子女、アンネローゼ・シュミットだ。 一見すると、人形のように愛らしく、誰かに甘えるような仕草を見せる幼いロリ美少女。
だが、その青い瞳の奥底には、科学部をも凌駕する卓越した兵器開発の知識と、獲物を品定めするようなサディストのような冷酷な光がチラついていた。
「ねえ、兵藤くん。あそこの教官のお姉さん、すごくいい身体してるけどさ……今度、特製の『痺れ薬』をこっそり盛ったら、どんな可愛い鳴き声を聞かせてくれるかなぁ?」
「……シュミット様、あまり過激な真似をして司令部に嗅ぎつけられるのはごめんです。少しお控えしましょうか」
「シュミット様じゃなくってアンネでいいっていつも言ってるでしょ!......もう」
同い年とは思えない威圧感を放ちつつも、兵藤がボソッとたしなめるのを、アンネローゼは「つまんないの」と子供っぽく頬を膨らませてかわす。
その個性豊かな「不適合者」たちの輪から少し離れた薄暗い物陰で、誰の気配も感じさせずに静かに佇む影があった。
黒ずくめの制服に身を包み、まるで呼吸の音すら消し去っているかのような少年――影山忍。
実家が忍者の末裔であり、幼少期から現代に至るまで徹底した忍者教育を受けてきた彼は、バイオ・スーツの適性テストなど最初から「ただの潜入と隠密の手段」として冷静に観察していたにすぎない。
(……カタシロ、か。搭乗者の神経を直結するあの機構、どこかで見覚えがあるな)
周囲がそれぞれの思惑でざわめく中、影山は微動だにしえず、闇に溶け込むように呟いた。
(ボリス司令の動き、そして外で暴れ回る不破の軌跡。どちらがこの戦場をかき乱すか……まあ、僕がとやかく言うことじゃない。主が生き残るための『影の道』を、いつでも切り拓けるようにしておくだけだ)
音もなく印を結ぶと、影山の姿はまるで蜃気楼のように周囲の風景へと同化し、完全にその気配を断ち消したのだった。
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