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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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尽きた手がかり 1

再びルーシェリアのターンに戻ります。

 珍しく数日のあいだ雨が降り続けたせいで、しばらくルーシェリアは仕事に出かけられなかった。屋根裏部屋は昼間もどんよりと暗く、明かりがないとろくに何もできない。

 雨がやんだすきにリドリーとキリアのところへ行ったりもしたが、基本的にはひたすら部屋にいることになる。じっと我慢の子だとばかり部屋にこもっているのはかなりの精神力を要した。基本的にルーシェリアは活発なたちで、部屋でじっとしているよりも外に出かけるほうが好きなのだ。


 部屋にいてもやることがないので、こういうときのために取っておいた古い新聞を出して、ランプの明かりを頼りに読んだりもした。もちろん自分で買ったものではなく、どこかでもらってきたものだ。


 リドリーに読み書きを教わって以来、ルーシェリアは何かを読むということが大好きになった。

 本は高価だから買えないけれど、ごくたまに、リドリーが貸本屋で本を借りるお金をくれることがあるので、そういうときは天にも昇る心地で好きな本を選びに行く。


「本でもあったら、いくらでも部屋にいられるんだけどなあ……ああ、外に出たい……」


 退屈のあまり寝台に転がってひとりごとを言うようにまでなってしまった。

 早く雨が上がってほしいと切実に願いつつ数日を過ごし、その甲斐あってかようやく太陽が雲のあいだから顔をのぞかせたとき、ルーシェリアは大喜びで部屋から飛び出した。とりあえずリドリーのところへ顔を出すことにする。


「ああ、濡れずに外を歩けるって素晴らしいなあ」


 足取りも軽く道を歩き、ぬかるみや水たまりを飛び越えたりしながら、ルーシェリアはリドリーの部屋にたどり着いた。とんとんと扉を叩くと、しばらくして「あら、ルーシェ」とキリアが扉を開けてくれた。


「やっと雨がやんだね!」


「ええ、よかったわね。もう降らないといいけど」


 キリアもほっとしたように笑顔を見せている。


「リドリーは?」


「奥にいるわよ」


 ちょうどそのとき、ルーシェリアの声を聞きつけたのか、リドリーが奥の部屋から居間に出てきた。昼寝でもしていたのか、顔つきが何となく眠そうだ。


「おう、ルーシェ」


「雨、やんだよ。これでようやく外に出られるから嬉しくってさ」


「おまえは部屋にいるのが苦手だからなあ。さっそく出かけるんだな?」


「うん。とりあえず中央街区に行って聞き込みの続きをしてくる。また夜に報告に来るから」


「分かった。まあ、あんまり見込みはなさそうだから、気負うなよ」


「分かってる。空振りに終わるだろうと思ってはいるんだ。でもいちおう可能性はつぶしておかないとね」


「そうだな。じゃあ、がんばれよ」


 リドリーとキリアの激励を受けて、ルーシェリアはいそいそと雨上がりの街を歩き出した。




「おや、こないだのぼうやだね。残念ながら、何人かに聞いてみたけど、特に何か知ってるひとはいなかったよ」


 隣の家に住む女中のアンナのところを尋ねると、開口一番、アンナはすまなさそうに謝ってくれた。とんでもない、とルーシェリアは首を振る。


「アンナさんのせいじゃないよ。謝らないで。聞いてみてくれてありがとう。やっぱり、アンナさんが知ってるようなことしか、話が出てこなかったんだね?」


「そうさ。ミセス・ダーシーは、もともとそんなにぺらぺらしゃべるたちの女性でもなかったからね。愛想の悪い人じゃないから、聞かれたらちゃんとおしゃべりに加わってくれるんだけど、自分から色々と話すほうじゃなかったんだ。あたしの知らないことを聞いてた人はいないみたいだったねえ」


「アンナさんがいちばん仲良しだったんだろうから、仕方ないよね。聞いてくれただけで充分助かったよ、ありがとう」


 この結果は予想していたので、ルーシェリアは落ち込むことなくアンナに礼を言い、「もし、また何か分かったら、覚えておいてくれる? そのうちふらっと、また顔を出すからさ」と念のために頼んでおいた。「ああ、分かったよ」とアンナが笑う。


「人探しってのも、なかなか大変そうだね。うまくいきそうかい?」


「うーん、あいにく、難航してるんだよね。いったいアルマン・タイラーさんとミセス・ダーシーはどこに行っちゃったのかなあ……」


「田舎に帰ったんだろうよ。それがどこかを聞いてなかったのが残念だね」


「うん。まあ、仕方ないよね。ありがとう、アンナさん」


 ルーシェリアはアンナに手を振って別れ、今度はタイラーの同僚の歌手に会うべく歩き始めた。


 数日降り続いた雨がようやくやんだせいだろう、今日はいつもよりも人出が多い。行き交う人々の表情も明るく、やっと外で活動できるという喜びが街の空気までかろやかにしているかのようだった。


 裏通りに入ると、さっそく洗濯物を窓から窓へ渡した綱につるして干している主婦が目につく。僕も洗濯しなきゃな、と心の片隅に留めておきながら、ルーシェリアはメモの住所を頼りにどんどん歩いた。

 ここ最近せっせと中央街区を歩き回っているおかげで、ずいぶんとこの地区の見取り図が頭に入ってきた気がする。


「さて、ひとりはこのあたりのはずなんだけど……」


 中央街区の中でもかなり南寄りの、この街区にしてはうらぶれた一画だ。金持ちのパトロンを見つけられないのか、自力でがんばっているのか、それは分からないけれど、今まで訪ねた3人の歌手に比べると格段に家賃の安い地区に住んでいる。気さくで話しやすい相手ならいいが、さて今回はどうだろう。


「すみません、この住所って、このへんだよね」


 ルーシェリアは通りがかった見習い店員らしきいでたちの少年に声をかけてみた。こざっぱりしたお仕着せに身を包んだ、いかにもどこかの大店(おおだな)の見習い小僧のような風情の少年だ。

 彼はルーシェリアの格好をじろりと見て馬鹿にしたようにへへんと笑ったが、偉そうな態度ではあったものの「これならもうちょっと向こうの通りだな」とそちらの方向を指さして教えてくれた。


「角の建物に目印のプレートが()まってるから、それを探せ」


「分かった。ありがとう、教えてくれて」


 ルーシェリアは礼を言ってその少年と別れ、教えてもらった方向へ歩いていった。


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