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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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再びアリンガム邸へ 1

ここでちょっとティリアンのターンになります。

 聞きたいことがあるので少し時間を取ってもらえないだろうかとアリンガムへ書き送った書状への返事を、従僕(じゅうぼく)が持ち帰ってきた。幸い屋敷にいたらしく、その場で返事を書いてくれたのだという。


「明日でも明後日でも、か。だったら明日にするか」


 少しでも早いほうがいいと明日にさせてもらうことにしてその旨をまた別の従僕に託して届けさせ、ついでにハーディスにも念のために伝言を送った。時間があるなら一緒に行くかと尋ねたのだ。その返事は夜に本人からもたらされた。


「明日、私もアリンガムのところに行くぞ」


 ティリアンはちょうど夕食を取っているところだった。ジョアンに案内されてこじんまりしたほうの食堂(こじんまり、と言っても公爵邸のほかの部屋に比してということに過ぎないが)に入ってきたハーディスは、一部の隙もないぱりっとした夜会服と短いマントに身を包み、いかにもこれから華やかな享楽の場に繰り出す放蕩者そのものといった雰囲気である。


「いいのか?」


「別の予定があったが、そっちは何とでもなる。おまえと一緒に行こう」


「分かった」


 従僕の給仕を待たずテーブルの上のグラスに勝手にワインを注いだハーディスは、空いた椅子のひとつに無造作に腰を下ろし、そのワインを口に含んで顔をほころばせた。


「うまい。いいのを飲んでるな」


「気に入ったのなら1本持って帰ったらどうだ」


「それは嬉しいな。ジョアン、頼む」


「かしこまりました」


 戸口に控えていたジョアンに指示を出すと、ハーディスはまたこちらに向き直り、少しあらたまった声音で尋ねてきた。


「明日は何のためにアリンガムのところへ行くんだ?」


 ティリアンは給仕をしていた従僕に「下がれ」と指示を出して下がらせた。扉が閉まり、ふたりだけになった部屋で、ハーディスに告げる。


「兄が後援していたアルマン・タイラーという歌手が、消息を絶っている。フォート兄弟に探してもらっているが、はかばかしくないのだ。かろうじてルーシェが彼の師匠だという往年の名歌手の名前を聞き込んできたから、そちらから探ってみようと思ってな」


「ほう……そのタイラーが何か知っているかもしれないと思っているのか?」


「姿を消したのが、兄が死んだ直後なのだ。住んでいた家を慌ただしく引き払い、仕事で付き合いのあったはずの者たちにも行方を告げていない。なんとなく、あやしいと思わないか?」


「なるほどな。たしかにあやしい気はするが、だが偶然ということも考えられる」


「だから偶然かどうかを確かめるためにも彼を見つけて話を聞きたい。タイラーの師匠であるイングラムという歌手を、アリンガムなら知っているのではないかと思って、聞くことにしたのだ」


分かった、とハーディスはうなずいてグラスの中のワインを飲み干した。グラスをテーブルに置いて立ち上がる。


「明日の午後に来る」


「ああ。あまり夜通し遊ぶなよ」


「大きなお世話だ」


 ハーディスはにやりと笑い、ではまたな、と食堂を出ていった。入れ替わりにまた従僕が現れる。


「お食事のほう、進めさせていただいてよろしいですか」


「ああ、頼む」


 ひとりで食事を取るのは味気ないが、もう慣れた。豪華だががらんとした空虚な部屋で食べるのも。

 ティリアンは小さくため息をつき、ワインの入ったグラスに手を伸ばした。食通のハーディスが美味(うま)いと評しただけあっていいワインだ。


(イングラムという師匠から、弟子の行方を聞くことができればいいのだが……)


 アルマン・タイラーが消息を絶っていることが妙に気にかかる。

 ルーシェ同様、ティリアンも、兄の死とタイラーの失踪には関係があるのではないかと思わずにはいられない。彼の慌ただしい出立(しゅったつ)は、何かを――知ってはいけない何かを知ってしまったからではないかと。


 兄の死をさぐるための手がかりはあまりにも少ない。指輪をさがすという糸がどうやら切れてしまった現状では、タイラーの行方のほかに糸口になりそうなものは、ギブソンやアリンガムの言動へのわずかな違和感くらいのものだ。打てる手がどうにも少ないことがもどかしかった。


(タイラーにつながる糸まで切れてしまったら、あとは無理を承知で、ギブソンやアリンガムをさぐるしかなさそうだな)


 もっとも、現実的に考えれば真相を暴ける可能性が低いということは、調査を始めた時点で分かっていたことだ。多くは期待せず、少しでも何かが分かったことを喜ぶべきなのだろう。少なくとも兄がよい友人たちに恵まれていたこと、友人たちに大切に思われていたことは知れたのだから。

 ティリアンはグラスに残ったワインを飲み干し、つかのま瞳を閉じて兄の思い出に浸ることを自分に許した。


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