リールズ公爵邸への訪問 5
「私はいないほうがいいということか?」
「雇い主にとって都合が悪いかもしれない情報を、その目の前で口にする使用人はいません。けれど今回は、そういう情報こそ大切でしょうから、もし誰かがそのようなことを知っていて口をつぐんでいた場合、ぜひとも話してもらわなければ困るのですよ。ですからあなた様抜きで、と申し上げているのです。できれば執事や家政婦頭など、上の立場の方もいないほうがいいです。もちろんそのおふたかたにも別で話をお聞きしたいと思いますが」
「……分かった」
ティリアンはうなずいた。
「それから、兄上の外見についてお聞かせください。公爵様と似ておられたのでは?」
「……いいや」
どことなく、声音に苦いものが混じったような気がする。ルーシェリアは顔を上げてティリアンを観察した。ティリアンは目を伏せて淡々と言葉を紡いでいく。
「似ていると言われたことはない。……それに、先ほども言ったが、私が最後に兄と顔を合わせたのは10年前のことだ。私が知っている兄の姿は10年前のものでしかない」
「そうでしたね。では、覚えている10年前のお姿を教えてください」
「髪の色は私と同じ黒だったが、波打つような癖があった。子供のころはもっとくるくると巻いていた。瞳ははしばみ色だった。背も私より低くて……今の私と比較すれば、たぶんこれくらいだったのではないか」
ティリアンは自分の頬骨のあたりに横にした手を当ててみせた。
「私には兄と妹ふたりの3人のきょうだいがいるが、私だけ、ほかの3人とはあまり似ていないのだ。……おそらく、母方の血が強く出たのではないかと思う。母方の従兄であるハーディスとのほうが、よほど兄弟のようだとよく言われたものだ」
「たしかに伯爵様とはかなり似ているね」
ルーシェリアはうなずく。
「そうだろう? 私たちの母親と、ハーディスの母親が姉妹なのだ。そのふたりもとてもよく似ていた」
「公爵様の母上は……」
「3年ほど前に亡くなった。……私は帰れなかったが」
3年前というと隣国との戦いが最も激しかったころだ。異国の戦場にいて、帰ることもできなかったのだろう。それはご愁傷様でございました、とリドリーが静かな口調で返した。
「ほかに聞きたいことはあるか?」
「いえ、今日のところはこれくらいで。……取り急ぎ、近侍のことを知っているという方に、話を聞きたいと存じます」
「分かった、今呼ぼう」
そう言うとティリアンは机の上にあった呼び鈴を鳴らした。すぐに扉が開いて、小間使いが顔を出す。
「ご用でございますか」
「ジョアンを呼んできてくれ」
「かしこまりました」
そう言って小間使いはさっといなくなった。まるで妖精みたいだな、とルーシェリアは思わず浮かんだ笑いをかみ殺す。言いつけられればなんでもこなす使用人たちのいる生活はさぞや快適なものに違いない。
ややあって、執事のジョアンが現れた。
「お呼びとうかがいましたが」
「兄に仕えていた近侍の故郷はどこか知りたい。彼の名前と出身地を教えてくれ」
「かしこまりました」
「よかったらここに書いていただけますか」
リドリーの差し出した紙に、ジョアンはさらさらと文字を書きつけた。
「彼は王都で雇い入れた者でした。以前に勤めていた者が、親が病に倒れたため家業を継ぐと職を辞しまして。従僕を誰かひとり昇格させようと思っておりましたが、ランドール様がご友人からの紹介だとおっしゃって連れてきたのでございます。……そのため、紹介状もなく、身辺調査などもできませず……」
「仕事ぶりはどうだったのだ」
「それは問題ございませんでした。ランドール様はいささか気難しいところのあられる方でございましたが、ご機嫌を損ねることもなく、うまくやっていたようでございます」
「コリン・ダンバー、ラウンティン出身、か……ここから近い町だな」
ジョアンが書きつけたメモを見てティリアンがつぶやく。
「さっそく、近日中に調査に参ります」
「そうだな。それからジョアン、このリドリー兄弟が、兄のことに関して使用人たちに話を聞きたいそうだ。リドリー、いつがいい?」
「そうですね、できれば近侍に話を聞きに行く前に済ませてしまいたいですね」
「では明日と明後日でどうだ」
ティリアンとリドリーはさくさくと話を進めていく。ジョアンも了承し、明日からさっそく使用人たちを順番に呼び出して調査を開始することになった。




