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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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マドロン地区の市へ 7

 「分かったよ、母さん……好きなだけ話せばいいさ。だがそれが俺のことだってのはばらさないでくれよな」


 「もちろん分かってるさ」


 リーサは涼しい顔でうなずき、ニコラスの頭をぽんと叩いた。


 「再来週の日曜に、ここから少し歩いた中央街区の広場で、小さな祭りがあるようだ。よかったらあの子を連れてってやっちゃどうだい」


 「……ルーシェを?」


 「そうさ。大道芸なんかもやるようだから、きっとあの子は喜ぶだろう。連れてってやりな」


 「……リーサ、何か企んでるのか?」


 ニコラスは胡乱(うろん)な目つきで養母を見つめる。


 「そう言やあ、こないだも言ってたよな…あの子のことについちゃ考えがあるって。何を考えてるんだ?」


 「なあに、たいしたことはないよ。あの子をおまえの嫁にできたらと思ってるだけさ」


 「……はあ!?」


 ニコラスはがばっと身体を起こした。驚きすぎてすぐには言葉が出てこない。仰天している息子をリーサは楽しそうに見返している。


 「よ、嫁って……おいリーサ、正気か」


 「あたしが正気じゃないように見えるのかい」


 「いきなり何を言い出すんだよ。正気を疑いたくもなるさ」


 ニコラスは呆然と首を振った。


 「今のところ、正気をなくしたつもりはないよ。そんなに驚くようなことかね?」


 「当たり前だろ、いくつ歳が離れてると思うんだ。だいたい、ルーシェはまだガキだぞ」


 「歳が離れてるのは確かだけど、おまえが思ってるほど、あの子は子供じゃないよ」


 「え……だって言ってただろう、14だって」


 さっき、確かにそう言っていた。だがニコラスがそう主張すると、リーサは「違うさ」と首を振った。


 「14歳ってのは、あの子が少年としてふるまうための設定なだけだ。ほんとのあの子は、もっと大きいはずだよ」


 「……なんでそんなこと分かるんだよ」


 「女だと知った上でよくよく観察したら分かるさね。二十歳(はたち)にはなってないかもしれないが、少なくとも十分に結婚もできるし子供だって生める歳ではあるはずさ」


 「……」


 言葉を失って黙り込むニコラスに、リーサはにやりと笑ってみせた。


 「可愛い子だ、きっとあの子が嫁に来てくれたら楽しいだろうねえ。まあおまえも、そう思ってもう一度あの子をよく見てごらんよ。あたしの言ってることが分かるはずだから」


 「……ひょっとして、だからまた来週来いと言ったのか?  俺にあの子を近づけるつもりで……」


 「まあ、そんなとこだね。いきなり口説けとは言わないが、今のうちに囲い込んでおくのも悪くないんじゃないかと思って」


 「……」


 ルーシェを嫁に、というあまりにも予想外すぎる考えがリーサにあったと知り、あいた口がふさがらない。ニコラスは頭を振り、「……なんてこった」と力なくつぶやいた。


 「子を産める歳だとしても、俺と親子ほど歳が離れてることに変わりはねえぞ」


 「だからなんだと言うのさ。それくらいの夫婦なんて珍しくもない。金や力にあかせて孫ほどの歳の女を囲う男だって山ほどいる。おまえとルーシェが所帯を持ったところでおかしくなんてないさね」


 「……あいつが女房らしいことをできるとは思えんぞ。料理とか、裁縫とか……」


 「そんなのはあたしがみっちりと仕込んでやるよ。男として育ってるんだから現時点でできないのは仕方ない。これから頑張って覚えりゃいいんだ」


 何を言ってもぽんぽんと答えが返ってくる。リーサはどうやら本気で『ルーシェを嫁にする計画』を発動させようとしているに違いなかった。


 「何をグズグズ言ってるんだい。別に強制するつもりはないけど、おまえはこの歳になってもふらふらするばかりでちっとも腰が定まらない。嫁でももらってしゃんとしないと、おまえは一生このままだろう。だからあたしが、おまえにうってつけの可愛い子を見つけてやったんじゃないか」


 「いや、だけどさ……」


 「おまえとルーシェは気が合うと思うよ。それに、あの子は度胸もあるし、自分の身を守るすべもそれなりには心得てそうだ。マドロン地区の顔役シドの女房としては悪くない相手だろう?」


 「……ルーシェのほうが嫌がるんじゃないか、そんな相手」


 なんとか反論してみたが、リーサの勢いは止まらない。ふん、と鼻を鳴らした。


 「だからじっくり囲い込めって言ってるんだよ。おまえもさんざん遊んできたんだから、女の口説き方くらいは知ってるだろうさ。経験を活かしてたらしこめばいいんだ」


 「……で、まずは祭りに連れて行けって流れか」


 「とりあえずお膳立てはしてやったからね。あとはおまえのほうで頑張りな。急がなくてもいい、じっくりとね」


 リーサは立ち上がり、カウンターの上を片付け始めた。


 「まずはもっと仲良くなることから始めたらいいだろう。男らしく頼りがいのあるところをしっかり見せてやりな」


 「……祭りには行くさ。でもそれだけだ」


 いくら大切な養母とはいえ、馬に手綱をつけてあやつるようにして動かされるのは勘弁してほしい。ニコラスも立ち上がり、リーサを手伝って食器を片付けながら釘を刺した。


 「これだけは言っとくけど、俺はあんたの思い通りに動くわけじゃねえぞ」


 「分かってるよ、そんなこと」


 リーサは澄ました顔で答え、「まあ、せいぜいうまくやるこったね」と言って笑った。



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