歌手たちの証言 6
「例えばどっかの大御所のご不興をこうむったとか、色恋沙汰のもつれとか、後援者との仲違いとか……一番ありうるのはそれかもね。資金がなくちゃ、王都で音楽は続けられないもの」
彼女の口調はズバズバと明快だ。確かに彼女の意見のとおり、ランドールが死んでしまったために援助が受けられなくなり、音楽を続けることが難しくなったというのが、いちばんありそうな線だと思われた。
「実は、彼を後援していた貴族のパトロンが誰なのかは、調べがついてるんだ。その人はこないだ亡くなっている。だからアルマンさんは音楽を続けることを諦めたのかもしれないね」
「そうだったのか」
ふたりとも驚いたようにルーシェリアを見た。「いいパトロンが死んじまったのか、それはあいつには打撃だったろうな」と青年が嘆く。
「そうね、そう聞くと、それが原因かもって思うわね。でも、彼くらいの男なら、新しいパトロンなんてすぐに見つかるんじゃないかしら」
「そういうものなの?」
ルーシェリアの素朴な疑問に、女は少し顔をゆがめて笑った。
「彼は綺麗な顔をしていたから、その気になればいくらでも裕福な奥方を釣り上げられたと思うわよ。愛人を欲しがるのは男ばかりじゃないもの」
「……そ、そっか」
「純粋に、音楽の才能だけを愛して後援者になってくれる金持ちなんて、ほんっとに少ないのよ。たいていは身体の関係を結ぶものだわ。あたしらがまがりなりにも所帯を持ってやっていけてるのは、この人がちょっとした金持ちのボンボンで、父親が遺産を年金にして遺してくれたことと、あたしの親も地方の小金持ちで、可愛い娘だからと未だに仕送りをしてくれてるおかげ」
「そ、そうなんだ。いいね」
「そうよ、すごく恵まれてる状況ってわけ。アルマンがそこまで恵まれていたわけじゃないのなら、自分の身体を売ってまでやりたくないと思ったのかもしれないわね。欲のない男だったから」
「そうだよな……あいつは、歌っていられたらそれでいいっていつも言っていた」
しんみりした口調で男がつぶやいた。どうも、まるで劇の台詞を口にしているみたいで、いちいち芝居がかったように見えてしまうのだが、歌手や役者というのは普段からこういうものなのだろうか。
「彼は王都出身だったらしいとセリーナさんが言っていたけど、あなたたちもそう聞いた?」
「うーん、どうかな。旅をしたことがないというのは聞いた。だが、王都出身だとあいつがはっきり口に出して言ったわけじゃじゃないし、実家がどこかも言わなかったな」
「じゃあ、どこに引っ越したかも、まったく心当たりはないんだよね」
「ないな。そうそう、ミスター・イングラムにでも聞いてみたらどうだ? アルマンに声楽を教えていた往年の名歌手だよ。支配人のつてでもたどれば探せるだろう。師匠になら何か言ってるかもしれないぞ」
セリーナからも聞いた人物の名前がまた出てきた。「分かった、聞いてみる」とルーシェリアは請け合い、このふたりから聞き出せるのはこれくらいかと、礼を言ってその賑やかな家を辞去したのだった。
今日はあちこち動き回ったからもうだいぶ疲れていたけれど、その足でルーシェリアはまたロナージュ歌劇場へ行って報告をし、タイラー青年の師匠だったというイングラム氏が住んでいる場所を知っているかと尋ねてみた。あいにく支配人は「知らないな」とため息をついた。
「もちろんこの業界では有名だから知ってはいるが、彼はそれこそ王立歌劇場で主役を歌っていたような人物だ、うちみたいな小さな歌劇場とは縁がないからな」
「うーん、分かった。じゃあ、その人のことを今度は調べてみる。もうそれくらいしか手がかりがないんだよね」
がっかりしたふたりは顔を見合わせ、苦笑いした。この支配人とのあいだにはもはやなんとなく連帯意識が芽生えているような気がする。
「調べるって言っても、どうやって……」
「まあ、そこはこっちも情報屋っていう商売をしてるからね。思い当たる方面からさぐってみる。調査が進んだら、必ず知らせるよ」
「ああ。ありがとな、ぼうず」
支配人は机の向こうから笑いをよこし、「疲れた顔をしてるな」とちょいちょいとルーシェリアを手招きした。近寄ったルーシェリアに銅貨を何枚か渡してくれる。
「えっ……」
「これで何か買って食え」
支配人が「ほんの駄賃だ」と言って片目をつぶる。ルーシェリアはありがたく受け取ってぺこりと頭を下げた。
「ありがとう。じゃあ、またね」
「またな」
(嬉しいな。何を買って食べようか)
思いがけない厚意に感謝しつつ、少しだけ軽くなった足取りでルーシェリアはロナージュ歌劇場を後にしたのだった。




