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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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歌手たちの証言 3

 ルーシェリアはあらためて屋内を見回した。小さいながらも吹き抜けの玄関ホールがあり、1階にも2階にもいくつかの部屋がありそうだ。どう見ても若い女性が自分だけの稼ぎで住めるような家ではない。


 先ほど女中が口にした『旦那様』という言葉からも、おそらくここに住む歌手の女性には男性のパトロンがついているのだろうということが察せられた。だからこんな家に住めるのだ。

 おそらくは、『旦那様』が持つこの家に、愛人として囲われているのだろう。ときどき伝言を持ってくる使い走りがいて、この家に訪問する日時を連絡してくるのだろうということまで見当がつく。ルーシェリアは小さくため息をついた。

 そうやって貴族や金持ちと関係を持ったあげく捨てられた女たちが、南街区にはごろごろと転がっている。ここに住むセリーナなる女性がいずれその仲間入りをしないことを願うばかりだ。


「あたしに話を聞きたいというのは、あんた?」


 ふいに上からやけによく通る声が響いてきて、ルーシェリアはぎょっとして顔を上げた。階段の上から、ひとりの女性がこちらを見下ろしている。


「そ、そうだけど。あなたがセリーナさん?」


「そうよ。アルマンのことを探してるって聞いたけど」


 室内履きのままのセリーナが降りてきて、階段を降りきる少し手前で止まった。

 身につけているのはゆったりした簡素なドレスのようなもので、どことなくしどけない雰囲気がある。髪を無造作に下ろしているからだろうか。


「そうなんだ。何かあなたが知ってることはないかと思って、聞きに来たんだ」


「あんまりお役に立てるとは思えないけど、まあ、座んなさいよ」


 セリーナは驚いたことに階段に腰を下ろし、ルーシェリアを促した。戸惑いながらも少し離れて一段下の段に座り、セリーナを見上げる。

 ふわりと広がる赤毛に白い肌、灰色の瞳。なかなかの美人だった。年のころは20代後半か30代はじめといったところだろうか。肉感的な体つきは、きっと男からはさぞかし魅力的に見えるだろう。

 ドレスの胸もとはなんと全部のボタンが留まりきっておらず、豊かな胸の谷間がばっちり見えている。赤面してどぎまぎと目を逸らしたルーシェリアをセリーナは面白そうに見つめた。


「どうしたの、ぼうや」


「え、いや、あの……お姉さん、綺麗で色っぽいから……」


 うろたえるルーシェリアがよほどおもしろいのか、セリーナはころころと笑い、「あんた、いくつ?」と聞いてきた。


「14だよ」


「ふうん。男なんてそれくらいまでが一番いいわよね。大人の男なんて、ほんとにみんな、ろくでもない」


「……」


「あんたくらいが一番可愛くていいね。で、何を聞きに来たの? アルマンのことって?」


「そ、そうだよ。アルマンさんとそれなりには話す仲だったって聞いたけど、ほんと?」


 ようやくまともに話せる話題になったと安心して口早に聞くと、セリーナは「どうかしら」と首をかしげた。


「共演した公演が終わるまではもちろん話してたわ。でも終わってからは全然。会ってもいないし、消息も知らない。彼を探してるって、どういうこと?」


「以前に住んでいた場所から引っ越してしまって、どこに行ったか分からないんだ。彼に世話になったから探してほしいという依頼をとある人から受けたんだけど、行方知れずで」


「ふうん」


「劇場の支配人も、引っ越していたとは知らなくてびっくりしていて、連絡を取りたくなることもあるだろうからぜひ探してほしいって言われた。それで、彼と交流があった歌手の人たちを何人か教えてもらって、話を聞きに回ってるところ」


「なるほどねえ」


 ふっくらとした、紅を塗ればさぞかし妖艶に見えるであろう唇をほころばせ、セリーナは苦笑した。


「残念ながら、彼が引っ越したことも知らなかったから、行方については何も教えてあげられないわ。ごめんね、ぼうや」


「いや、そんなの仕方ないよ。とにかく、何でもいいから、彼について知ってることを教えてくれないかな。どんな人だったのか、誰に歌を習っていたのか、どんな暮らしぶりだったのか、そんなことを」


「そうね、アルマンはとにかく綺麗な青年だった。優男(やさおとこ)っていうのかな、あんまり男くさくなくて、話しやすかったわね」


 ここでもまず彼の容姿についての褒め言葉が出てきた。アルマン・タイラーはよほどの美青年だったらしい。


「ふむふむ」


「声がまた素敵でね。柔らかいテノールで、張りがあって、高音がよく伸びて……本当にいい声だった。今はまだ少し線が細いけど、もう少し鍛えたら立派に主役を張れるって感じの声」


「そうなんだ。共演したんでしょ?」


「そうよ。主人公ふたりの友人で、お互い好きなんだけど年の差もあって素直になれないっていう役どころね。演技はまだまだちょっと固いところもあったけど、まあそれは慣れだから。アリアは素晴らしかったわよ」


「よく話した?」


「そうね、役の解釈についてとか、歌い方についてとか、お互いの目線の動きとか……二重唱の場面もあったから、ときどき一緒に練習したわね。あたしより年下だからかな、素直でこっちの意見もよく聞き入れてくれた。共演者としちゃあ、ものすごくやりやすい相手だったわ」


「あなたより年下だったの? 何歳なのか知ってる?」


「去年共演したときに聞いたら、24歳だと言ってたわね。本当に若いでしょ、ふふ」


 共演したときのことを思い出したのか、セリーナは懐かしそうに目を細めた。



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