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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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歌手たちの証言 2

 支配人が教えてくれた歌手仲間のリストは、いまやアルマン・タイラーの行方をたどるたったひとつの手がかりだった。


 ルーシェリアを支配人のところまで案内してくれた男性が去り際に教えてくれたところによると、ここに書かれた名前はいずれもまだ駆け出しの歌手たち、つまり主役を張るような大物ではなく、アルマン・タイラーのような若くて売り出し中の歌手たちだということだった。


 主役になれるような歌手はひとりで専用の楽屋(出演者がもらえる控室だと教えてもらった)を使えるが、そうでない歌手たちは大きな楽屋を共同で使うので、親しく話したり情報交換をしたりして関係を深めることが多いそうだ。

 そういう若い歌手仲間なら、タイラーのことをもっとよく知っているのではないかというのが彼の意見で、ルーシェリアもそれに期待をかけていた。


 とりあえずこの歌劇場から一番近くに住んでいる男性歌手のところにまず行くことにする。

 テノールとバリトンという男声歌手の違いについても今日初めて説明してもらい、やっとルーシェリアにもその言葉の意味が分かった。テノールは高い声、バリトンは低い声の男性歌手のことだという。

 オペラで主役になるのは必ずと言っていいほどテノールで、アルマン・タイラーはそのテノールだということだった。ちなみにこれから向かう歌手はバリトンだ。


 道中で道を尋ねたり迷いかけたりしつつもなんとか記された住所にたどり着き、ルーシェリアは扉の部屋番号のプレートを確かめてからノッカーをごんごんと叩いた。


「すみません、ハントさんはいませんかー」


 声を張り上げると、なぜか横の部屋の窓から人の頭がぬっと出てきて、ルーシェリアはあやうくうわっと叫ぶところだった。その頭はこちらを見て「そのうちの人は夕方にならなきゃ帰ってこないよ」と言った。よく見ると自分と変わらないくらいの年齢の少年だ。


「そ、そっか。ありがとう。あなたは彼のお隣さん?」


「そうだよ。ハントさんは夫婦でそこに住んでるけど、どっちも昼間はいない」


「じゃあ、また夕方に来るよ。ありがとう、教えてくれて」


 では次のところへ行くまでだ。ひとりくらい今日中にちゃんと話したいものだと思いつつ、ルーシェリアはリストの2番目の人物のところに行くことにした。今度は女性だ。

 女性だから楽屋は別だったが、舞台上でタイラー青年との絡みが多い役だったらしく、歌い方や舞台での立ち位置、二重唱の練習など、よく相談したり一緒に歌っていたりしたのだという。彼から何か聞いていたらいいいのだが。


 住所を書いたメモのとおりにたどり着いた場所は、北街区に近い、落ち着いた住宅が並ぶ地区だった。若い駆け出しの女性歌手が稼げる金で住めるような場所ではないと、中央街区に住んでいない人間でさえ見当がつくような場所だ。


「さて、誰に出してもらったお金なのかな」


 つぶやきながらその家に近づく。これまでに巡ったタイラーやさきほどの家とは違い、ここはこじんまりとしてはいたが一軒の独立した家だった。小さいながらもぐるりと庭があり、黒い錬鉄製の格子が巡らされている。ルーシェリアは開いていた門扉をくぐり、横の勝手口とおぼしきところに回ってそこの扉を叩いた。


「はい?」


 ややあって扉が開き、中年の女性が現れた。黒い簡素なワンピースに白いエプロンという女中らしいお仕着せに、いささか横幅のある身体を押し込んでいる感じの女性だ。彼女はルーシェリアを見て眉をひそめた。


「なんだい、初めて見る顔だけど、旦那様の新しい使い走りかい?」


「旦那様……? あ、いや、違うよ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 違うと言ったとたんに女性の目が険しくなった。問答無用で扉を閉めようとする気配を察知して、必死に扉を押さえて言いつのる。


「おかしな用事じゃない。人を探してるんだ。アルマン・タイラーっていう歌手の人。ここに住んでいるのが彼の知り合いの歌手だって、ロナージュ歌劇場の支配人から聞いて、訪ねてきたんだよ」


 ロナージュ歌劇場と聞いて、女性が動きを止めた。


「支配人からの使いなの?」


「まあ、そんなもんだよ。ここに住んでるの、確かに女性歌手のセリーナさんって人?」


「……そうよ。奥様に聞きたいことって、何なの」


「タイラー氏の行方についてだよ。探している人がいるんだ。それに劇場の支配人さんからも、探してくれって頼まれてる。セリーナさんなら何か知ってるかもしれないから話を聞いてきてほしいって頼まれて、こうやって来てるんだ。だからどうかセリーナさんに取り次いでよ」


 おそらく劇場の支配人じきじきの依頼だということが効いたのだろう、女性はうろんな顔つきながらももう扉を閉めようとはしなかった。「おいで」と中に招き入れ、こじんまりした玄関ホールまでルーシェリアを連れていく。


「奥様に聞いてくるから、そこで待ってなさい。動くんじゃないよ」


「もちろんだよ」


 女性は恰幅(かっぷく)のいい身体にふさわしい足音を立てながら階段をのぼって2階に上がっていった。


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