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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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アルマン・タイラーの旧居へ 2

「見た目はどんな感じ?」


「ミスター・タイラーは、いかにも優男(やさおとこ)って感じの、綺麗な子だったよ。中肉中背の黒髪の青年で……目の色はちょっと覚えてないね。ほとんどしゃべったことはないけど、見かけたら会釈くらいはしてくれた。穏やかそうないい青年だったね」


「そうなんだ。ミセス・ダーシーのほうは?」


「彼女は甥っ子とはちっとも似ていなかったねえ。まあ、親子ってわけじゃないし当然か。あたしくらいの背丈で、あっちのほうが少し痩せてるかな。髪はたぶん濃い茶色だけど、白髪が混じっていて、実際より薄い色に見えた。瞳は黒だったね」


「へええ」


 そのとき、話を続けようとしていたその女性がふと口をつぐんで、視線をルーシェリアの後ろに向けた。


「おやポリー、いま帰りかい」


「アンナ、ただいま。何やってんの」


 ルーシェリアはぱっと振り向いた。20代ほどのまだ若い女性が、重そうな買い物かごを持って立っている。黒っぽいドレスに白いエプロン、白いキャップという、アンナと呼ばれた女性と同じような小間使いのお仕着せを着ている。アンナというのがいまルーシェリアと話している女性の名前らしい。


「なんかね、この子が、そこにこないだまで住んでたミスター・タイラーのことを探しに来てるんだ。で、何か知りませんかって」


「へえ……あの兄さんを? なんで?」


 話好きなのだろうか、ポリーと呼ばれた女性はいそいそと近づいてきてルーシェリアに話しかけてきた。


「あたしはここに住んでる奥様に仕えてるの。タイラーさん、かっこよかったのに、どこかへ引っ越しちゃって、つまんないわよね。どうして彼を探してるの?」


 ここ、とポリーが指さしたのは、先ほど不在だった左側の家の扉だった。市場に買い物にでも行っていたのだろう。


「あの、僕は兄さんと共同で情報屋をやってるんだけど、彼を探してほしいっていう依頼が来たんだ。なんでも、彼に世話になったから礼をしたいって」


「へええ……いいところあるのね、優しそうだったからねえ」


 ポリーは納得したようにうなずき、「ねえ、その依頼主って、女性じゃないの?」と興味津々(しんしん)といった口ぶりで聞いてきた。


「いや、男の人だけど……どうして?」


「なあんだ、男なの。アルマンさん、かっこいいから、彼を見初めた女性が彼のことを探してるのかと思っちゃって。だったら楽しいじゃない」


 アンナもポリーも一様(いちよう)に彼の外見を褒めているということは、彼は誰が見てもそう思うほど整った容姿なのだろう。そういえば歌劇場でもなかなかの美青年だったと評されていた。


「ご期待に沿えなくて悪いけど、そういうんじゃなさそうだね。でも、引っ越してしまったみたいで、足取りがたどれなくて困ってるんだ。お姉さん、何か知らない?」


「残念だけど、そういうことを詳しく聞き出せるほど、親しくできていたわけじゃないのよね。そもそもアルマンさんとはほとんど話したこともないもの。伯母さんだっていうミセス・ダーシーとは、井戸端や市場なんかで話をしたことはあるけど、まあ当たり障りのない世間話ってほどしか……」


 そこで言葉を切って少し首をかしげたポリーは、「ああ、アルマンさんが小さいけどちゃんとした劇場の舞台に立って、それをすごく喜んで教えてくれたわ。甥っ子が王都の舞台に立てるなんて嬉しいって」と笑った。


「ああ、あたしにも教えてくれたよ。彼は声楽の勉強をしていて、歌手になるのが夢だったんだけど、少しだけその夢がかなったって。熱心に学んでいたみたいだからねえ」


「熱心に学んでいた?」


「そう。声楽の先生について習っていると聞いたよ。家にもときどき来ていたんじゃないかね。それっぽい男性が来ていたのを何度も見たねえ。昼だったり夜だったり、時間はまちまちだったけど、必ずピアノの音が聞こえていたから」


「ふうん」


 これは新しい情報だ。確かに、歌手を目指して勉強に励んでいたのなら、師匠と呼べるような人物が彼を指導していたというのは自然なことだろう。なんとかしてその相手を見つけられないだろうか。


「そうやっていっしょうけんめい勉強して、舞台にも出て、これからってときなのに、田舎に帰っちゃったわけか。残念だっただろうな」


 ルーシェリアがつぶやくと、アンナもポリーも「そうだねえ」と同情顔になった。


「ミセス・ダーシーも悲しそうだった。でも仕方ないね、音楽の勉強なんて金がかかる。こんなところに住めていたんだから、きっとミスター・タイラーの家はそこそこ裕福なんだろうけど、誰かが病気になって戻らなくちゃいけなくなったってことは、その費用をもう出せなくなってしまったということなんじゃないのかね」


「そうかもね」


 実際のところ、アルマン・タイラーがここを借りていられたのは、おそらくランドールが後援者として援助していたからではないかと思うのだが、その一方で、アンナの言うことにも筋が通っていた。

 地方の小金持ちが息子を王都へ音楽の勉強にやり、それで身を立てさせようとしたが、思いがけず稼ぎ手が病に倒れたりでもして余裕がなくなり、仕方なく息子を呼び戻す。いかにもありそうなことではないだろうか。


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