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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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アルマン・タイラーを追って 1

 教わった店は、結構な大通りに面した建物の1階にあった。なかなか立派な店構えからしてかなり大きな商会らしい。ルーシェリアの心の中で『警戒!』と自分自身に注意を促す声がする。


(こういう大きな店は、概して店員が貧乏人に高圧的なんだよな。あんまりうまくいきそうな気がしないぞ)


 だがとりあえず声をかけて聞いてみるしかない。ルーシェリアは扉を開けて店内に入った。


 広い部屋の中はちょうど真ん中あたりで腰高のカウンターで区切られ、その向こう側とこちら側とで店員と客が対面して相談できるようになっていた。

 店員も客もそれぞれ10人ほどいるが、対応している店員はそのうち5人ほどで、客はこちら側でたたずんだり椅子に座ったりして順番を待っているようだ。


「何の用だ」


 扉を開けたルーシェリアの横から神経質そうな細い声が降ってきた。ひょろっとした中年の男がルーシェリアを見ている。店員のお仕着せを着ているから彼も店員なのだろう。やってきた客にその用向きを聞いて案内する役なのかもしれない。


「あの、ここで以前に家を借りた人について、聞きたいことがあるんだけど」


「ああ?」


 男はいかにも小馬鹿にしたように眉を吊り上げ、「おまえは客じゃないだろう。客じゃないのに対応してもらえるとでも思ってるのか?」と吐き捨てた。


「客じゃないけど、とある貴族の依頼で、人を探してる。その探している人が、以前この店で家を借りていたから、そのことについて教えてほしいんだ」


「おまえみたいな薄汚い子ネズミが、お貴族様の用向きだと? 笑わせるなよ」


「嘘じゃない! リールズ公爵様だ、あなただって名前くらいは知ってるだろう?」


 むっとしたルーシェリアが反論すると、「もちろん名前くらいは知ってるさ。我が国きっての大貴族だよな」と男はせせら笑った。


「そんなお方が、おまえと知り合いだって? 馬鹿も休み休み言えよ、ぼうず」


 男はずいと前に出て、ルーシェリアは仕方なく一歩下がった。次の瞬間、男のこぶしが飛んでくる。完全には()けることができずに頬に鈍い痛みが走った。


「おまえにくれてやれるのは俺の拳骨(げんこつ)だけだ、子ネズミはとっとと穴倉に帰んな!」


 ルーシェリアの目の前でバタンと扉が閉まる。ルーシェリアはガンとその扉を一度だけ蹴りつけてから、そこを離れて歩き出した。いつまでもぐずぐずしていて水でも()かれたら余計に腹が立つ。


「やっぱり予想通り、ここから情報は取れなかったか。仕方ない、ここまでのことを公爵様に話して、後はあっちから聞いてもらおう」


 今いる場所は中央街区でも北よりの場所なので、どうせリールズ公爵邸に行くならこれから行ったほうが長い距離を何度も歩かなくて済む。

 ちょうど疲れてきたころだし、あっちでお茶でも飲ませてもらおうと、ルーシェリアは気を取り直して歩き始めた。


******


 しばらく歩いてたどり着いた公爵邸では、幸いにもちょうどティリアンが先ほど帰ってきたとのことで、少し待っただけで執務室に通された。

 書き物机に座っていたティリアンが、入ってきたルーシェリアに何気なく顔を上げて、驚いたように目を見開く。


「ルーシェ、どうしたのだ」


「え……? いや、報告をしようと。いつものことだよね?」


 驚かれたことに驚いたルーシェリアが思わず立ち止まると、ティリアンは立ち上がってつかつかとこちらに近づいてきた。

 ルーシェリアのすぐそばまで来て「怪我をしているではないか」と言うと、ルーシェリアの頬にそっと指をすべらせた。ラウリア商会の店員に殴られたところだ。まともにくらったわけではないから少し痛む程度だが、見てわかるくらいの跡はついているようだ。


「ああ、それね」


「いったいなにがあったのだ? 誰かに襲われでもしたのか」 


「違うよ。これからちゃんと調査の経緯を話すけど、その最後に行った店で、店員に殴られた。()けきれなくて軽くくらっちゃっただけ」


「殴られた、だと? 店員に?」


 ティリアンがさらに驚いたようだったので、「うん」ととりあえずうなずいておく。

 さらに問いを重ねようとしたティリアンが、扉がこんこんとノックされる音に気づいて「ひとまず座ろうか」とルーシェリアをうながした。それから「入れ」と声を上げる。ルーシェリアはありがたく椅子に腰を下ろした。


 いつものように小間使いがお茶のワゴンを押して入ってきて、香り高いお茶を淹れ、おいしそうなお茶請けとともにテーブルに置いてくれる。ひたすら歩き回って疲れた身体(からだ)もこれで元気になれそうだ。


「どうぞ」


 ティリアンが勧めてくれたので、ルーシェリアは「ありがとう!」とさっそく手を伸ばした。

 まずはパンをかじる。ルーシェリアの大好きな、胡桃(くるみ)とはちみつのペーストが塗られたサンドイッチだ。


「おいしい……」


 目を閉じてうっとりと味わう。ほのかな甘みが香ばしい胡桃の風味とあいまっていくらでも食べられそうだ。


「ルーシェ、ミルクは?」


「あ、お願い」


 ティリアンがミルクを入れてくれた紅茶をひと口飲んで、やっぱりここのお茶は最高においしいなと満足のため息をついていると、「で、その傷は?」とあらためて問われた。


「ラウリア商会っていう店に、アルマン・タイラーのことを聞きに行ったんだ。でも、おまえは客じゃないだろうって言われて、さっさと帰れって殴られた。避けきれなくてさ」


「……それだけで殴られたのか。私の名前は出さなかったのか?」


 眉をひそめたティリアンに、「言ったよ、リールズ公爵の依頼だって。でも信じてもらえなかった。おまえみたいな薄汚い子ネズミが、そんな大貴族と知り合いのわけないって」と説明すると、ティリアンはさらに眉根を寄せた。


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