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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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調査の現状確認 1

「アルマン・タイラーを調べる?」


「そうだ。ジョアンに確認してみたが、ジョアンもタイラーという青年の連絡先は知らないと言っていた。もしかして近侍(きんじ)だったコリン・ダンバーに聞いたら分かるのかもしれないが、いったん王都で探してみてもいいかと思う。方法はそちらに任せるから、とにかくタイラーを見つけてほしい」


「うん、分かった」


 ルーシェリアはうなずいた。

 公爵邸に来る予定だったあたりであいにく2、3日ほど雨の日が続き、1週間に一度は顔を出すという約束が少し遅れてしまった。ティリアンが「構わない」と言ってくれたのでほっとしているところだ。

 貴族や裕福な中央街区の者なら馬車に乗ればいいが、貧民街の住人はそうもいかない。本降りの日に外出するのは全身ずぶぬれになることを意味する。だから雨の日には南街区は閑散としている。仕事などでどうしても外出が必要な不運な者以外はじっと家にこもっているからだ。

 今日になってやっと雨もやんだので、とりあえずやってきたというわけだった。


「しばらくのあいだに、公爵様のほうの調査がずいぶん進んだようだね」


「進んだと言えるほどのものではないが」


「お兄さんが死んだときランタンがそばに落ちていなかったこと。背中から綺麗にひと突きされていたこと。手帳が見当たらないこと。指輪がいつの間にかなくなっていたこと、でも3年ほど前にはまだあったこと。アルマン・タイラーという歌手がお兄さんにずいぶん気に入られていたらしいこと。気になる反応を見せたひとがふたりいること……今のところ、分かっていることはこれだけなんだね」


「ああ。とにかく、あまりにも情報が少なすぎる。半年も前の事件を追うのだから仕方ないのだが」


 ティリアンはため息をついて紅茶のカップに口をつけた。綺麗な所作はさすが貴族と思わせる優雅さにあふれている。


「まあ、細い糸でも糸は糸だ。私ももう少し、アリンガムとギブソンを調べようかと思っている。君たちはタイラーを探してくれ。おそらく、中央街区の歌劇場をいくつか回れば、見つけられるのではないかと思うが」


「そうだね。さっそく調べてみる。故買屋から指輪をあたるほうは、どうもうまくいかなさそうだし」


 ルーシェリアも引き続き故買屋に尋ねてみているが、今のところ成果はない。

 ランドールの生前にすでに身辺からなくなっていたらしいということも重ね合わせると、犯人に奪われた指輪が南街区の故買屋に流れたという線は薄そうである。


「もし見つけたら、どうするの?」


「ひとまず面会の約束を取り付けてくれないか。以前支援していたランドール・アースターの弟が会いたがっていると言って。兄の生前の様子を聞きたいと」


「あっちも新しい後援者を探しているかもしれないしね」


「ああ。家が裕福であればともかく、普通の音楽家なら金には苦労しているはずだ。兄が目をかけていたなら私も支援するのにやぶさかではない。そう言えば会うのを断りはしないだろう」


 それはそうだろう。得てして舞台に立つような職業の者はその本業だけでは食べていけず、パトロンを探すものだ。

 女性であればパトロンとは愛人関係になることが多く、男性であっても美しい若者ならそういう嗜好(しこう)を持つ相手に水面下で囲われることもある。

 男色(だんしょく)はディエリアでは違法だから、露見(ろけん)すれば罪に問われてしまうが、若く美しい少年や青年を欲しがる男は実際のところそれなりには存在する。だから南街区では見目のいい少年も人買いや人(さら)いに狙われるのだ。

 タイラーという青年がどんな外見なのかは知らないが、肉体関係を要求せず金だけを出してくれるのなら願ってもない話だろう。


(まさかこの公爵様が、男を相手に愛人になれと要求するようにも見えないし)


 もちろん彼の性的嗜好は分からないが、少なくとも身分や金をかさに着て横暴にふるまうような貴族ではないことは、これまでの短い付き合いからでも分かる。純粋に援助するだけという、きっと理想的な後援者になるのではなかろうか。


「……どうした」


「え?」


男性の同性愛は、イギリスでは1967年まで違法でした。1533年にヘンリー8世が「バガリー法」を制定して同性愛行為を死刑相当の重罪としたことに始まり、1861年までは有罪となれば死刑が宣告されていた(執行されるかどうかは別として)のです。

この物語ではヘンリー8世はいませんが、1800年代初頭における歴史的背景を踏襲しているため、男色が露見すれば逮捕され、有罪になると死刑の判決が下されます。

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