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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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クラブでの再調査 2

 ラングドンは顔を明るくしてそのプログラムを受け取り、一枚ずつしっかりと目を通し始めた。友人たちもおもしろそうにその作業に見入る。

 その横のギブソンは酒を飲みながら「ケンジットとオーウェンも音楽好きだからな。どんな感じの曲だったか思い出せたら、彼らも一緒に探してくれるんじゃないか」とラングドンに言った。そうだな、とラングドンが声をはずませる。


「華やかな感じの、明るい曲だったと思う。ランドールが楽しそうに弾いていたのを覚えているから」


「だったら短調の曲は除外してもよさそうだな」


 音楽好きだというケンジットとオーウェンがプログラムをめくり、短調の曲のものを抜き取っていく。


「僕もその指輪のことは覚えているが、オーウェンの言う通り、言われてみれば最近はしていなかったように思う。その指輪が遺品にないのなら、いったいどうしたんだろうな」


 ハンフリーズが不思議そうに言った。ティリアンは「兄に誰か意中の相手がいて、その相手に贈ったのかもしれないと思ったのだが……」と口にして、さりげなく皆の反応をうかがう。


「意中の相手?」


「あいつに?」


 いかにも意外そうなことを聞いたという顔の中で、ひとりだけ、はっと目を見開いた人物がいた。ギブソンだ。手にしていたグラスが揺れ、中の酒が波打つ。

 ほかの者は気づかなかったようだが、ティリアンと、そして同じように彼らを観察していたハーディスも、ギブソンの反応をしっかりと見てとった。


(ギブソンは何か知っている)


 ティリアンはハーディスとすばやく目を見かわした。ギブソンは何か言い出すだろうか。そうしたら、誰も知らない指輪の行方に新たな展望が開けるかもしれない。

 しかしギブソンは何も言わず、グラスに視線を落として目を伏せた。


「ランドールにはそんな相手はいなかったんじゃないかな」


 ハンフリーズが言い、「僕もそう思う」とケンジットも同意した。


「あいつは付き合いが悪くて、社交界の行事にもろくに出なかった。かといって中央街区に通ったり、誰かを愛人にしたりしていた雰囲気でもなかったぞ。なあ、ラングドン」


「ああ。僕も心当たりがない。あいつはとにかく音楽に身を捧げているように見えたから」


 ラングドンはそう言いながらプログラムの確認を続け、しばらくして「うーん、このあたりじゃないかと思うんだが、これ以上絞れない。すまないな」とティリアンに数枚のプログラムを渡した。


「あいつが弾いた曲は、僕の知ってる曲じゃなかったが、明るくて華やかな曲だった。あと、その日のプログラムで別のピアニストたちが連弾していたことを思い出したから、連弾用の曲が入っているものを選んで……だが、それ以上は覚えていない。すまないな」


「いや、十分だ。礼を言う」


 渡されたプログラムにはいずれも年月日が記載されているから、その4枚の中で、ラングドンの言う『3年ほど前』という条件に合うものをさがす。当てはまるのは2枚だった。ラングドンからこれ以上絞るのは無理そうだ。


「アリンガムは、こういう催しをよく開いているようだな」


「そうだな。僕はいつも参加しているわけじゃないが、ランドールはたぶん欠かさず行っていたのではないだろうか。アリンガムの屋敷は音楽好きが集まるサロンのようになっているから」


「僕たちもよく行っているよ。なあ、オーウェン」


 ケンジットがオーウェンに同意を求め、オーウェンのほうも「ああ」とうなずいた。


「アリンガム邸での音楽会は、音楽愛好家にはちょっと有名な集まりでね。耳の肥えた聴衆が集まるから緊張するという演奏家も少なくないらしいが、ランドールはそこで聴くだけでなく、ときどき演奏も披露してくれた。たいした腕前だったな」


「その音楽会には、本職の音楽家も、兄のように趣味で音楽に打ち込んでいる者も、両方いたのか?」


 ティリアンが聞くと、「そうだね」とケンジットが説明してくれた。


「アリンガムが認めた者ならだれでも参加できる。駆け出しだが実力はあるという新進の歌い手や演奏家たちのあいだでは、アリンガムの音楽会に招かれるのが一種の登竜門のようになっているんだ。そこでパトロンを見つける者も多いよ」


「ほう」


「アリンガムの一族は代々芸術愛好家として知られた家柄でね。アリンガムも小さいころから屋敷に出入りする音楽家たちに囲まれて育ったらしい。声楽家の奥方を迎えたというのも納得だな」


「そういうランドールも、たしかあそこで誰かを気に入って後援者になっていなかったか? ほら、あの男性歌手だ」


「アルマン・タイラーのことか?」


 ハーディスが聞くと、「そうだ、そんな名前だった」とオーウェンが思い出したように答えた。


「僕も聴いたことがあるが、たしかにあのランドールが認めただけのことはある、素晴らしい歌声だった。のびやかで張りがあって、驚くほど滑らかに高音も出せる。将来有望だと感じたな」


「彼は今どうしているのだろうか。知っているか?」


 ティリアンの問いに、しかしそこに居合わせた皆は一様(いちよう)に首を振った。


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