クラブでの再調査 1
次の日は前日からの雨がまだ降り続いていた。馬車に乗って再びクラブに足を運んだティリアンは、ハーディスがもう来ていただけでなく、ラングドンと同じテーブルにいたことに驚くはめになった。しかもふたりだけでなく、あと数人の紳士が、思い思いに酒を飲みながら葉巻をくゆらせている。
ティリアンの姿を認めたラングドンが片手を上げ、「アースター、こっちだ」と陽気に声を上げた。
「ハーディスが来たからこちらに誘ったんだ。よく来たな、まあ座れよ」
ティリアンはラングドンのまわりの紳士たちを興味深く観察しながら勧められた椅子に腰を下ろした。
そこではラングドンとハーディスのほかに4人が座り、葉巻と酒を楽しんでいたようだ。どの顔にも見覚えがなかった。
「彼はもうリールズ公爵なのだから、アースターではなくリールズと呼ぶべきなのではないか?」
ひとりがラングドンに向かってそう言った。大柄な黒髪の紳士で、酒のせいか顔が赤い。それからティリアンに目を向け、「会ったことはなかったな。バリー・ギブソンだ」と自己紹介をした。
「ティリアン・アースターだ。呼び方はなんでも構わない」
「僕はハロルド・ケンジットだ。君のことはずっと前に寄宿学校で見たことがある程度だから、こちらも初対面だな」
「私はラッセル・ハンフリーズ。ギブソンやケンジット同様、ランドールとは寄宿学校時代からの友人だった。彼のことはお悔やみ申し上げる」
「ああ」
「僕はギデオン・オーウェンだ。僕の妹が、君の妹のレディ・オーレリア……いや、今はレディ・サイラールだな、彼女と仲の良い友人どうしでね。彼女がうちに来たことも何度もある。よろしくな」
「そうだったのか。妹が世話になった」
ティリアンは上の妹であるオーレリアの交友関係など何ひとつ知らない。そもそも、彼女が14歳のときに家を離れ、戻ってきたときは彼女はもう結婚して夫の領地に住んでいたから、まだ一度も顔を合わせていないのだ。
領地が近ければまだ訪ねやすかったかもしれないが、彼女の夫であるサイラール伯爵の領地はディエリアの最北部に近い場所にあり、そうそう足を運べる場所ではない。
いずれ夫妻で王都に来るときに会えるだろうと思っていたものの、つい先日届いた手紙には、ふたり目の子供を懐妊したので旅は当分控えると書いてあった。妹に会えるのはさらに先のことになりそうだ。もはや、顔を合わせてお互いがちゃんと認識しあえるかもあやしいかもしれない。
それにしてもずいぶんと都合よく、あのリストにあった名前――ランドールの友人がこうして集まっているものだと思っていると、ラングドンが「僕が招集をかけたんだよ」とあっさり種明かしをした。
「この前、君はランドールの指輪のことを聞いてきただろう? 探しているんだろうから、僕と同じく彼の友人だったこいつらにも話を聞きたいかと思って、まとめて集めることにしたんだ。アリンガムにも声をかけたけど、彼のところにはもう行ったんだってな。だったらもういいかと思ってあいつは呼ばなかった」
「そうだったのか。礼を言う、ラングドン」
ラングドンの親切に感謝して頭を下げ、運ばれてきたグラスにラングドンが酒を注いでくれるのを見守る。なんというか、ずいぶんと面倒見のよい男だ。おそらくこんな感じでランドールのことも世話を焼いてくれていたのだろう。
「指輪?」
ひとりがいぶかしそうに声を上げる。ティリアンは「ああ。兄の持っていた指輪を探している」と説明した。
「兄が少年の頃に祖父から譲られて大切にしていた指輪が、遺品の中に見当たらないのだ。兄の友人だったラングドンなら心当たりがないだろうかと、先日尋ねてみたのだが……」
「残念ながら僕は知らなかった。だから、おまえたちにも聞いてみようと思って」
ラングドンはそう言い、「ほら、覚えていないか? ランドールが嵌めていた、紫水晶の指輪だよ」と空中に指であやしげな模様を描いてみせた。
「こんな、蝶の羽をかたどったような意匠の。男ものにしては珍しいから僕はよく覚えていたんだが」
「ああ、僕も覚えているよ」
オーウェンが思い出したように声を上げた。そして、首をかしげる。
「たしかにあいつはそんな指輪を嵌めていた。だが、いつの間にか見なくなったような気がするが……?」
癖の強い焦げ茶色の髪をした頭を振り、「うーん……」と唸る。
「少なくとも、ここ数年は見ていないんじゃないかな……?」
「3年ほど前にはまだあったんだよな。あれがいつだったのか……」
ラングドンも一緒になって唸っているので、ちょうどいいとティリアンはアリンガムから預かったプログラムの束を取り出した。
「アリンガムにその話をしたら、あなたにこれを見せるといい、と言われたのだ。このプログラムを見て、あなたが兄から指輪を預かったあとで兄がどんな曲を演奏したのかを思い出せたら、その演奏会がいつのことだったのかを特定できるから」
「なるほどな。ちょっと見せてくれ」




