アリンガム邸への訪問 4
「そうだな。私も好感を持った」
「ラングドンといい、アリンガムといい……ランドールは、多くはなくても友人には恵まれていたようではないか」
「そうだな。おまえの言いたいことは分かる」
「そうだろうとも。彼らに会ってみると思わずにいられない。なぜランドールは、彼らにも何も相談しなかったのかと」
ティリアンは黙ってうなずいた。自分もそう思わずにはいられなかったからだ。
家族やハーディスに何も言えなかったのは、それまでの経緯を鑑みれば理解できる。だが、あんなにいい友人たちがそばにいたのに、兄はなぜ、自分が何か困りごとを抱えていると告白しなかったのだろう。
打ち明けて、助けてくれ、一緒にことに当たってくれと率直に頼めば、少なくともあのふたりなら絶対に断りはしなかったことだろう。親身に相談に乗り、必ず助けの手を差し伸べてくれたはずだ。だが兄は言わなかった。
「……言えなかった、というのが、おそらく正しいのではないか?」
ティリアンの言葉にハーディスは「どういうことだ」とこちらを向いた。
「簡単なことだ。後ろ暗い秘密だったから誰にも言えなかった。あるいは、彼らを巻き込みたくなかったからあえて言わなかった。南街区に関わることだったのだろうから、どちらの可能性もおおいにありうる」
「なるほどな……」
「見たところ、彼らはどちらも善良で、そして……南街区になど関わりそうもないような行儀のいい紳士で、荒事にも縁がなさそうだ。兄は、彼らに相談しても自分の問題が解決するわけではない、彼らには解決できない種類の問題だと判断したのかもしれない。だから誰にも言えず、ひとりでなんとかしようとした」
「……そうかもな」
ハーディスは小さくため息をついた。それから気を取り直したようにまた口を開く。
「さて、次の調査はどうなるのかな、探偵さん」
「調べるべきことが三つある。ひとつはラングドンにこのプログラムを見せて、指輪を預かった時期について尋ねること。リストにあったほかの友人たちに話を聞くこと。それから、アルマン・タイラーという歌手に会って話を聞くこと。ほかにも思いつくか?」
「いや、ないな。では順に潰していこう。とりあえず『アイヴズ』に行けばラングドンは捕まえられるし、もしかしたらほかのやつらにも会えるかもしれない。また明日にでもクラブに行ってみよう」
「ああ。タイラーという歌手については、ジョアンに聞いてみる。もしジョアンが連絡先を知らなかったら、フォート兄弟に頼んで探してもらうとしよう」
「了解した。ではまた明日の午後にクラブで、ティリアン」
「ああ」
屋敷の前でおろしてもらう。ティリアンの姿を認めて門番が走り寄り、門を開けてくれた。
「お帰りなさいませ」
「ああ」
屋敷までの小径をたどっているうちに、ぽつぽつと雨が降り始めた。本降りになる前に帰りつけてよかったと思いながら屋敷に入り、ジョアンに迎えられる。
自室に引き取ったあと、書き物机の椅子に腰を下ろしたティリアンは、今日のアリンガムとの会合を思い起こした。
(わずかだが、アリンガムの反応に気になるところがあった。兄に想う相手がいたのではという問いを投げたときと、兄が後援していた歌手についての感想を述べたときと)
アリンガムは何か知っているのだろうか。もし知っているのだとしたら、なぜ口に出そうとしないのか。だが、考えたくてもあまりにも材料が乏しすぎる。とりあえずもう少し調査を進めてからあらためて検討することにして、ティリアンは椅子の背もたれに背中を預けて目を閉じた。
「……とりあえず、まだ情報が少なすぎるな……これでは犯人を見つけるには程遠い」
自分と、ハーディスと、そして南街区のフォート兄弟と。たった4人でどこまで調べられるのか。正直に言うとそれほど期待はできないだろう。だが、だからといってやらないという選択肢はない。これ以上はどうしようもないというところまでは続けたい。
少しでも調査が進むことを念じつつ、ティリアンはこれからやるべきことに思いを巡らせた。




