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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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掃除再び 2

 ルーシェリアはにこやかにニコラスの背中を叩いて激励するとその場を離れた。自分ではできなかった場所を掃除できる助っ人の登場にさらにやる気が高まる。


「さあ、僕はこっち半分をがんばろうっと。……あれ、どうしたの、リーサさん」


 リーサはカウンターに突っ伏してまだ笑っていた。目に涙まで浮かべている。


「いやあ……あんたのおかげで、おもしろいものを見せてもらったよ……」


 笑いすぎて息も絶え絶えなリーサにルーシェリアは首をかしげたが、まあいいか、ともう一本のはたきを手に店の反対側の壁に向かった。前回やり残した東半分だ。


 持参した大判の布で鼻から下を覆って頭の後ろでぎゅっと縛り、端からばさばさとはたきをふるって(ほこり)を落としていく。

 もわもわと数年分の埃が舞い上がってすごいことになっているが、幸い今日は風が強い。リーサが既に窓を全部開けてくれていたので、前回よりも換気ができている気がする。奥のほうも開け放っているのか、そちらからも風が吹いてきていい感じだ。

 ルーシェリアは気分よくはたきをふるい、無心に掃除に励んだ。前回も思ったけれど、ここまでやった成果が明らかに目に見えると、たいへんすがすがしいものがある。


 途中でふと相方(あいかた)のほうを見ると、嘘つきニックはやけくそのようにはたきを振り回していた。背が高くて腕も長いぶん、ルーシェリアとははたきの届く範囲が段違いである。すでにあらかたの家具にははたきがかけられているようだった。

 ときおりゲホゲホとむせているが、これに()りたら次回からはちゃんと鼻と口を覆えるものを用意してくるだろう。そもそも一番埃が出るのは今の作業だから、来週からはもっと楽なはずだ。


 そんなこんなで掃除は順調に進み、「そろそろ終わりにしちゃあどうだい」とリーサが呼びに来たころには、埃を払う作業はあらかた終わっていた。


「リーサさん見てよ、埃が積もってないでしょ」


「ああ。ずいぶんがんばってくれたんだね、ルーシェ」


「リーサさんがニコラスさんを貸してくれたおかげではかどったよ、ありがとね」


「……俺に感謝の言葉はねえのか」


「もちろんあるってば。お疲れさま、ニコラスさん。さすが背が高いと便利だね、使い勝手がいいよ」


「俺は掃除の道具じゃねえ!」


 ルーシェリアとリーサを恨めしげに睨みつけたニコラスはどっかりとカウンター前の椅子に座り、「疲れた……」と情けない声を出した。


「こんなことをさせられたのは初めてだよ、まったく。腹減った、なんか食わせてくれ」


「そう言うと思って用意しておいたよ、ほら」


 リーサが大きな皿をカウンターに置く。ニコラスは途端にぱっと顔を上げて笑み崩れた。


「ミートパイかよ! こいつは嬉しいな」


「さあ、ルーシェもお座り。いまお茶を()れてあげようね」


「うわあ、おいしそうだね……! ありがとうリーサさん!」


 焼き立てなのだろう、まだほかほかと湯気を上げているミートパイを、ルーシェリアはうっとりとしたまなざしで見つめた。食欲をたまらなくそそる匂いがあたりに立ち込めている。

 リーサは手際よくお茶を淹れてくれたあと、ナイフでミートパイに切れ目を入れた。大きく切り分けて皿に載せてくれる。


「はいよ、ルーシェ」


「ありがとう!」


「それからこっちはおまえの分だよ、ニック」


 ミートパイを取り分けてくれたリーサは、ふたりの顔を見て笑い出した。


「あんたたち、同じ顔でこっちを見てるんじゃないよ。笑っちまうじゃないか」


「同じ顔?」


 ルーシェリアとニコラスは顔を見合わせた。


「どんな顔だよ」


「早く食べたいっていう食いしん坊の顔だよ。さあ、おあがり」


「はぁい。いただきます!」


 ルーシェリアはさっそくほかほかのミートパイにかぶりついた。香ばしくさっくり焼けたパイ生地の中に肉汁たっぷりの中身がたまらない。味付けも絶妙だ。


「お、おいひい……はふはふ」


「おまえ何言ってんのかわからねえぞ」


「おいしいって言ったの! リーサさんすごいよ、ほんとに。こんなにおいしいミートパイ食べたことない!」


 感動のあまり涙が出そうだ。熱く訴えるとリーサは照れくさそうに笑った。


「ありがとうよ」


「確かにリーサのパイは絶品なんだよな。他のどこで食ってもこんなにうまいミートパイは出てこないんだ、おまえも心して食えよ」


「心だけじゃなくて全身で感動しながら食べてるよ、もちろん」


 ルーシェリアとニコラスはがつがつとミートパイをむさぼり食った。キリアもたまにミートパイを作ってくれることがあるが、より慎ましい材料費で作らざるを得ないからだろう、ここまでしっかりと肉の味がすることはない。シドは養母にかなり余裕のある生活をさせているようだ。まあ、この店の怪しい取引で得た金なのかもしれないが。


「そんなに急いで食べてどうするんだい。喉に詰まらせたりするんじゃないよ、まったく」


「らっへおいひいんらもろ」


「だからおまえ、何言ってんのか分からねえって。ちゃんと口の中のもん食ってからしゃべれ」


 ニコラスがルーシェリアのふくらんだ頬をつついた。


「はは、リスみてえ」


「ふるはい」


 皿の上のひと切れがなくなると、リーサがお代わりを入れてくれた。


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