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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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掃除再び 1

 公爵邸に行った翌々日、ルーシェリアはまたマドロン地区のリーサの店におもむいた。目的はもちろん、先週は途中までしかできなかった、店の掃除の続きをすることである。

 リーサの出してくれるパイが原動力のかなりの部分を占めていることは否定できないが、掃除自体も結構楽しいなと思うのも事実で、ルーシェリアは足取りも軽く目的地へと歩いた。


「こんにちは、リーサさん。今日も来たよー」


「おやおや、今日も来たのかい。物好きな子だねえ」


 リーサはそう言いながら奥から出てきた。手にバケツやはたきなどの掃除用具を持っている。それをルーシェリアの足もとに置くと、「今日は助っ人がいるよ」と奥に向かって呼びかけた。


「ニック、出ておいで」


(ニック?)


 ルーシェリアが首をかしげていると、奥からひとりの男が現れた。背が高くて体格のいい中年の男だ。男はニカッと明るい笑みを浮かべてみせた。


「おう、おまえがルーシェか。俺はニコラス。この店とリーサの用心棒として、リーサの息子から派遣されてる」


「息子って……シドから?」


「ああ」


「そっか。よろしくね」


 挨拶しながらルーシェリアはニコラスを観察した。年のころは40歳前後、ひょうひょうとした、どこか人をくったような印象の男だ。

 男にしては長めの黒髪を首の後ろで束ねている。瞳の色は明るい灰色で、真っ黒な眉との対比が目を引く。日に焼けた精悍(せいかん)な顔立ちはたいへん整っていて、ひとくせありそうな雰囲気の男が好きな女性からはものすごくもてそうだな、とルーシェリアは思った。


「こないだはいなかったの?」


「奥にいたんだよ。なんか物好きな子が店の掃除をするっていうから見に来てみた。今日もするのか?」


「うん。せっかく途中までやったからね」


「でかい図体(ずうたい)で奥でゴロゴロされても邪魔なだけだからこの子の手伝いでもしなって言ってやったんだよ。こき使ってくれていいからね、ルーシェ」


「わあ、嬉しいな。高いところが掃除できなくて残念だったんだ。ありがたく手伝ってもらうね、リーサさん」


「おい、俺の意向は」


「あんたの意向なんざ知ったこっちゃないよ、嘘つきニック」


「……嘘つきなの?」


 ルーシェリアはまじまじとニコラスを見つめる。まあな、とニコラスは悪びれずにうなずいた。


「こんな場所でまっとうな正直者が生きていける訳がねえだろうが。悪いか」


「ううん? 別に悪くないよ。でもみんなそうなのになんでわざわざ嘘つきだなんて看板ぶら下げるのかは、僕にはよく分からないけどね。……あれかな、ちょっとかっこいい二つ名みたいなやつ?」


「……はあ?」


 意表をつかれた表情になったニコラスには構わず、ルーシェリアは彼の手にそっとはたきを握らせた。


「たまにそういう呼び名で呼ばれたがる人っているよね。片目のなんとかとか、疾風のなんとかとか。でもあれ、本人はかっこいいと思ってるのかもしれないけど、ちょっと微妙だよね。なんていうか、自意識過剰でさ」


「……はあ」


「そういうふうに呼ばれて喜んでるのってたいてい本人だけで、まわりからは結構笑われてるってこともあるよね、残念ながら」


 はたきを持たされたニコラスをさりげなく店の隅――前回できなかった、大きな家具がごちゃごちゃと置かれたところに誘導しながら、ルーシェリアは話し続けた。


「俺はそんなんじゃねえ!」


「そう? まあ別に呼ばれ方は人それぞれだから、あなたがそう呼んでほしかったらもちろんそうしてあげるよ。僕、そういうことには寛大なんだ」


「だから違うって言ってるだろう!」


「違うの? じゃあいっそ別の二つ名を考えてあげるのもいいかもね。お掃除ニックとかどうかな。ぴったりだよ。ということでお掃除ニックさん、ここをお願い。この家具にはたきをかけて(ほこり)を落としてね。僕じゃ背丈が足りないから、この前はできなかったんだ。あなたならばっちりだね」


 ルーシェリアは埃にまみれた家具の群れを指差した。ニコラスはその家具と手の中のはたきを交互に見て呆然と立ちつくした。後ろではリーサが大笑いしている。


「この家具を終えたら、こっちもお願いするね。僕は向こうからはたきをかけるから。分かった?」


「……おいちょっと待て」


「ごめんごめん、いい年した大人なんだから分かるよね、それくらい。じゃあよろしく」


「だから待てって――」


「ニコラスさん、これはあなたの将来のためでもあるんだよ。はたきをかけることもできないようじゃ結婚しても奥さんに苦労をかけちゃうもの、今のうちにしっかり修行しなよ。いつか僕とリーサさんに感謝する日が必ず来るから。さあ未来の明るい家庭生活のためにがんばって」


「未来って、あのな――」


「あ、それとももしかしてとっくに結婚してる? もういい年っぽいもんね。だったらますます掃除の技術はちゃんと磨いておかなくちゃ。奥さんの機嫌を取る必要に迫られるときもあると思うんだ、そういうときにきっと役立つよ。ではよろしく」


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