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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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クラブでの調査 5

 扉がノックされ、部屋の中の沈黙が破れた。


「失礼いたします。ウェザビー子爵がお見えになりました」


 ギボンズの声だ。ティリアンとハーディスは目を見合わせた。


「ありがとう。彼はひとりか?」


「はい。今はおひとりです。おそらくしばらくしたらご友人がいらっしゃるのではないかと思いますが」


「そうか……では今のうちに少し話をしておくか」


 ティリアンは立ち上がった。もちろんハーディスも立ち上がり、一緒に部屋を出る。ギボンズが先に立って案内してくれた。

 階段を下りて1階の広々とした談話室に入る。あちこちにローテーブルが置かれ、それを囲むようにいくつもの椅子や長椅子が置かれている。その一画にひとりの男が座っていた。亜麻色の髪をきっちりと後ろに撫でつけた、ややぽっちゃりした青年だ。ティリアンの同級生だった弟によく似ていて、一目で彼がハロルド・ラングドンだと分かった。


「彼だな」


「ああ」


 ラングドンと面識のあるハーディスがうなずく。

 ギボンズは「では、わたくしはこれで」と会釈すると下がっていった。そのままふたりで進み、ラングドンの前に出る。顔を上げたラングドンが怪訝(けげん)そうな表情になった。


「パーセル、久しぶりだな。それから君は……ティリアン・アースターか!?」


 思い当たったらしいラングドンが立ち上がった。ティリアンの肩を叩き、「ランドールのことは、お気の毒だった」と低い声で告げる。その声音にはまぎれもない真実の情がこもっていて、ティリアンははっと顔を上げた。


「ありがとう、ウェザビー」


「ランドールとは寄宿学校時代からのよき友人だった。あのような形で彼を失ったことは残念でならない。まあ、よかったら座りたまえ」


 自分の前の椅子を指し示す。ティリアンとハーディスは腰を下ろした。


「君のことはときどき学校で見かけたな。弟からもよく話は聞いていた。しかし驚いたよ、これほど非の打ち所のない男ぶりになっているとはな。社交界に出たら女性たちがさぞかし騒然とすることだろう」


 ラングドンは気のよさそうな笑みを浮かべ、「で、今日はどうしたんだ?」と聞いてきた。


「兄のことで話を聞きに……少し、時間を取ってもらっていいだろうか」


「もちろん。何が聞きたいのだ?」


「ウェザビー、あなたは兄の指輪を見たことがあったか? 蝶の姿をかたどった、紫水晶の指輪なのだが」


「ああ、祖父君の形見だというやつだな? もちろん知っている。あいつはよくあれを()めていた」


「それがどうなったか、ご存じないだろうか。実は、兄の遺品を整理していたところ、その指輪がないのに気づいたのだ。兄はあれを大切にしていたから、まさか紛失したということもないだろうと思うのだが、見当たらなくて」


「ふむ……」


 ラングドンは丸っこい顔を少ししかめてしばらく考え込んだ。


「そういえば……いつの間にか、あいつはあれを嵌めなくなっていたような気がするな。いつからだろう……」


「兄はいつもあの指輪を嵌めていたのか?」


「ああ、外出するときはたいてい嵌めていたような気がする……そうだ、少なくとも、3年ほど前にアリンガムの屋敷で音楽会を催したときには、確かに嵌めていた」


「ほう」


 ティリアンはハーディスと顔を見合わせた。


「アリンガム……ネイサン・アリンガムだな。子爵の」


 ハーディスの質問にラングドンがうなずく。その名前がリストにあげられていたことをティリアンも思い出した。


「そのとき確かに嵌めていたと、どうしてはっきりと覚えているのだろうか」


 ティリアンが聞くと、「簡単さ。指輪を僕が預かったからだ」とラングドンは笑った。


「その音楽会でランドールはピアノを弾いたんだ。ピアノを弾くのに邪魔になるからしばらく預かってくれと言われ、僕が預かって胸ポケットに入れていた。もちろん終わったらすぐに返したぞ。だからよく覚えているんだ。あいにく、いつ頃だったかははっきりとは思い出せないが、アリンガムに聞いたら教えてくれるんじゃないか」


「その後はどうだったか覚えていないか?」


「ああ、僕が覚えているのはそれくらいだな……君にこうして聞かれるまで、そんなことを覚えていたことも忘れていた。おや、なんだか言い回しが変だな」


 ラングドンがまた笑う。邪気のないその笑顔は弟と本当によく似ていた。どことなく愛嬌があってひとがいい。だからまわりの人間と軋轢(あつれき)を生まず楽しくやれるのだ。ここの兄弟は顔立ちも性格もどうやらよく似ているようだった。


(私と兄とはまるで違うな)


 きっと兄弟仲もいいのだろう。弟のほうもよく兄の話をしていた気がするから。つきりと胸が痛むのをこらえ、ティリアンはせっかくの機会だからともう少し質問してみることにした。


「兄の指輪がどうなったのか、あなたに心当たりはないだろうか」


「残念ながらまったく。ただ、ランドールは大切なものをうっかりなくすような男ではなかった。もし本当に見当たらないのなら、その……強盗に()ったということだから、そのときに奪われたのではないのか?」


 夜に外出したところを強盗に襲われて亡くなったというのが発表されている死の理由だ。だから、指輪もそのときになくなったのだろうというラングドンの意見ももっともだった。ただ、もうひとつの可能性もあるのだ。


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