表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第1章 春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/37

公爵の結論 3

「……っ」


 ティリアンは目を見開いてルーシェリアを見つめ返した。いつも冷徹な彼には珍しく、わずかに、しかし確かに驚きの表情を浮かべている。


「ルーシェ、座れ」


 横でリドリーが焦ったようにルーシェの手を引っ張ったが、ルーシェリアは動かなかった。


「座るつもりはないよ、リドリー。僕たちは侮辱されたんだ。ここで依頼終了として、このままここから出ていくか、それとも公爵様が非を認めたうえであらためて信頼に基づく協力関係を結ぶか、ふたつにひとつだろう。違うの?」


「……まあ、違わないな」


 苦笑したリドリーは、この場を(つくろ)うのをあきらめたらしい。やれやれと言いながら立ち上がった。


「言葉が過ぎてはいますが、ルーシェの言うことは間違ってはいないと俺も思います。(おど)されてまで仕事をしたいわけじゃない、俺たちは手を引かせてもらいましょう」


 そのほうが公爵様のお心も安らぐことでしょうし、とつけ加えたリドリーは「おいで。帰ろう」とルーシェリアに声をかけて椅子から離れた。連れだって戸口へ向かいかけたとき、「待ってくれ」とティリアンの声がした。


「ルーシェ、君の言う通りだ。私のやり方は間違っていた。謝罪するから、もう一度、座ってくれないか」


「えっ!?」


 ルーシェリアはリドリーと顔を見合わせた。


(お貴族様が、謝罪するだって!?)


 振り返ってみると、立ち上がったティリアンが、こちらをじっと見つめている。その表情が若干(じゃっかん)気まずそうだったので、ルーシェリアの怒りは少しおさまった。


「ほんとにそう思ってるの? 僕たちを引き止めたいだけじゃなくて?」


「先日と同じ間違いをまたしてしまったな、と思っているところだ。すまなかった、ふたりとも」


 ティリアンがはっきりと謝罪の言葉を口にした。ルーシェリアはリドリーともう一度視線を合わせ、どうしよう、とささやく。リドリーはティリアンに向き直った。


「よろしいのですか。俺たちをこの件に関わらせるということは、俺たちも秘密を知る立場になるということですよ。本当に構わないのですか?」


「ああ。重ねて言うが、君たちを信用していないわけではないのだ。ただ……ああいうやり方は、貴族どうしならば当たり前でごく普通の駆け引きだが、君たちには……特にルーシェには通じないということを失念していた」


 ティリアンが椅子を示し、座ってくれる気はあるか、と再び尋ねた。謝罪された以上、ルーシェリアたちもそれを拒む理由は見つからない。リドリーが座るのに合わせてルーシェリアもその横に腰を下ろした。


「それにしても、君は本当に物怖(ものお)じしない子だな。いくつなのだ?」


 ルーシェリアに視線を向けたティリアンが、感心したと言いたげな口調で尋ねてきた。


「14だよ」


「そうか。ずいぶんとしっかりしている」


「子供だから怖いもの知らずなだけですよ」


 横のリドリーが苦笑する。ふたりのあいだでそういう役割分担にするってことになってるじゃないか、と思いつつも、自分の行動のほとんどが地であることも分かっていたので、ルーシェリアは黙って視線をよそに向けた。


「ハーディスが君のことを、頭のいい子だと褒めていた。その口ほどに頭も回るなら、確かにさぞかし頭の回転も速いのだろうな」


「ええ、この年にしてはしっかりしていましてね。仕事の片腕として十分役に立ってくれています」


「ちょ、リドリー」


 ルーシェリアはちょっと赤くなってリドリーの袖を引っ張った。リドリーはルーシェリアに甘い。ルーシェリアを褒めてくれるひとに対してはとたんに好意的になるという、弟(いや実は妹だが)としては面映(おもは)ゆく照れくさいところがある。今回もどうやらその弟馬鹿な性癖が刺激されてしまったらしい。

 急ににこやかになったリドリーと、恥ずかしそうな表情になっているであろうルーシェリアを、ティリアンが興味深そうに見比べている。


「ともかく、君たちには今後も引き続き調査に当たってほしい。こちらも兄の交友関係について、ハーディスの協力のもと本格的に調べてみようと思っている。南街区に関わる情報が出てきたらすぐに知らせるから、そちらを調べてほしい。了承してもらえるだろうか」


「ええ、分かりました。こちらでも、できる範囲でもう少し突っ込んだ調査をしてみます」


 そのあとリドリーとティリアンが報酬のことで簡単に打ち合わせをし、何もなくても週に一度はこちらから連絡をとることを確認したのち、ふたりは公爵邸を辞した。てくてくと歩きながら、リドリーが大きく伸びをする。


「あーあ、肝を冷やしたぞ、今日は」


「……ごめんね、でもつい、むかっとして……」


「いや、おまえは間違っちゃいなかった。だがな……もうちょっと言葉は選んだほうがいい。あの公爵様だったから今回は何も言われなかったが、普通のお貴族様や中央街区の商人だったりしたら、あんな言い方をされたら腹を立てるのが普通だ」


「でも、そういうことにしてるじゃないか。子供の僕が、言いにくいことはずばっと言うって」


「まあな。でも言い方ってもんがあるだろう?」


 リドリーはぽんぽんとルーシェリアの頭を軽く叩いた。


「おまえの課題だな、それは。もう少しああいう相手に対する交渉術ってもんを磨け」


「……分かった」


 リドリーの言いたいことは分かったので、ルーシェリアはおとなしくうなずいた。それを見たリドリーが安心したように口もとを緩める。


「おまえは賢い子だ。公爵様にも褒められたじゃないか。歯に(きぬ)着せぬ物言いは、受け入れてもらえるときと、そうじゃないときがある。ちゃんと使い分けられるようになれ」


「うん」


「おまえならできるさ。さあ、がんばって歩いて、今日はもう一仕事できる時間に戻れるといいな」


「そうだね」


 遅めの昼食を取って、午後にもう少し働けそうだ。ふたりはキリアの作る昼食を思い浮かべつつ、足どりを速めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ