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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第1章 春

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12/34

調査を開始する 2 

「公爵家の使用人は数が多いから聞き取りも一日では終わらなかったが、明日にはさすがに終わるだろう。そのあとで故郷に戻ったという近侍(きんじ)を探すことにする。おまえのほうは引き続き故買屋をあたってくれ。これからまた出るんだよな?」


「うん。訳ありっぽいものが流れてきそうな店に行ってくる」


「気をつけるんだぞ」


「分かってる」


 そう言うとルーシェリアは立ち上がった。


「じゃあ、行ってくるよ。おやすみ、リドリー」


「ああ。また明日の夜にこうやって会おう」


「了解」


 ルーシェリアはキリアにもおやすみの挨拶をすると部屋を出た。外はもう暗くなっている。これなら、日没後にしか開かないような店でもそろそろ仕事を始めていることだろう。ルーシェリアはリストを(ふところ)に入れ、ランタンを手にして、新しい店に向かった。


 故買屋というのは当然ながらあやしげな品が流れ着くものだが、その中でも本当に人目についてはいけない(たぐい)のものは、これまた当然ながら表には出てこない。今回の探し物である指輪は、これから行くような店でさえ、おそらく店頭に並ぶことはないだろう。値が張るものでも買えそうな客にそれとなく話を持ちかけ、こっそりと奥で売るような扱いになるはずだととルーシェリアは踏んでいた。

 

 何しろ殺害された貴族が身に着けていた指輪だ。持ち去ったのは十中八九犯人だろうから、それを持っているということは自分が犯人だという証拠を保存しているに等しい。一刻も早く処分したいはずだ。

 しかしせっかくの金目のものを捨ててしまうというのはあまりにももったいないから、おそらく事件の直後は避けるにしても、いずれ売り払う算段をつけるだろう。それがルーシェリアの予想だった。足元を見られて多少は買いたたかれるにせよ、あれだけのものだからそれなりの値はつくに違いない。

 もしかしたら、もう故買屋からさらに流れて、金細工職人などの工房に渡ってしまっている可能性もある。石と台をばらせば証拠の品ではなくなるのだからそれが一番足がつきにくい。そのようなつてを持っている店で、そして後ろ暗い商品でも引き取ってくれる店……。


「ろくな店じゃないよね、ほんとに。そういうところがそれなりにあるんだから困ったもんだ」


 ルーシェリアはひとりごとを言い、最初の候補の店に入った。


 翌日もルーシェリアは同じことを繰り返した。日中も店をいくつか巡ってはこれまでと同じ説明をして回り、最後にルーシェリアが向かったのは、マドロン地区の一角にある、その地区で唯一の故買屋だった。リーサの店、という名で知られる店だ。

 

 ごみごみしたマドロン地区に点在する酒場のひとつがこのあたりにあり、そのちょうど反対側にあたる裏道に、ひっそりと店を出している。小さな看板には錠前屋でもないのに錠前と鍵の意匠が彫られていて、一見すると何の店だか分からない。通りすがりの客がふらりと入るような店ではないので、これでいいのだろうが。


 ギイイ、と古く重い木の扉を押し開けて薄暗い店の中に入る。店の奥に置かれた大きなランプの明かりがかろうじて出入口まで届くかどうかといった暗い店の中は雑然としていて、家具やら日用品やら食器類やら古ぼけた絵画やら、いろんなものがいっしょくたに詰め込まれていた。ここは質屋を兼ねていて、流れてしまったものも売っているので、生活用品の割合も多いようだ。


「誰だい」


 暗がりからひとりの女が姿を現した。60代なかばくらいに見える小柄な女だ。ほぼ白くなった髪をふっくらと結い、飾り気のない白いブラウスと焦げ茶色のスカート、そして刺繍のほどこされた黒い胴着を身に着けている。彼女が店主のリーサだろう。若いころはなかなか美しかっただろうと思わせる雰囲気で、今でもその残り香を上手にとどめている。


「こんばんは。初めまして、僕はルーシェ・フォートだ。兄が以前ときどきお世話になっていたんだけど」


 ルーシェリアは丁寧に挨拶した。目をすがめた女が、フォート、と聞いて得心した表情になる。


「兄ってのは情報屋のリドリー・フォートか。あの男の弟だね?」


「うん。今日は探し物があって来たんだ。少しだけ時間をもらえる?」


「ああ。まあお座り」


 カウンターの奥にあるスツールに腰かけたリーサが、カウンターをはさんで店側にあるスツールを指さした。ルーシェリアはそこに腰かけ、カウンターに例のスケッチを載せる。


「探し物はこれかい?」


「そう。お貴族様からの依頼でね、手違いで売り払われてしまった指輪を取り戻したいんだって。金の台に丸いカットの紫水晶が()め込まれてる」

 スケッチを目にしたリーサは、ふうん、と気のない表情でうなずいた。特段の反応はなかったが、リーサほど老練な商売人がこちらに隙を見せるはずもない。ルーシェリアは気にせずに話し続けた。 


「なんでも親族の形見らしくて、僕たちに依頼してきたお貴族様は何としても取り戻したい、あるいはせめてどうなったか情報だけでも知りたい、と言っている。見つかればもちろん買い戻すし、現物がなくても、有力な情報なら金を払ってくれるって。だから、もしこんな指輪に関する情報を耳にしたら、教えてくれない? 情報提供料はちゃんと払うからさ」


「ああ、覚えとくよ」


 リーサは請け合ってくれた。


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