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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第3章 盛夏

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ニコラスと祭りへ 6

 子供たちの歌声が響く中、山車(だし)から下ろされた聖女像をひとりの大柄な男が捧げ持った。そしてゆっくりと井戸の奥の壁面に向かう。

 その下には踏み段が置かれていて、男はそれをのぼり、しつらえられた壁龕(へきがん)に聖女像をそっと安置した。その様子を見ていると、この聖女様はあたりの人々にとても大切にされているんだなあと改めて思う。


「あの聖女様も、さんざん水をかけられたんだろうね」


「だろうな」


「ふふ。ご苦労様ってとこだね」


 聖女様が家に帰ってきたことで祭りはお開きになったらしい。だがまだ屋台は絶賛営業中だ。むしろ、山車に付き従って歩いてきた子供たちが我先にと群がり、えらいことになっていた。その様子がおかしくてまたひとしきり笑ってしまう。


「おまえ、人のこと笑える義理かよ。同じくらい食い意地はってるくせに」


「僕は食い意地がはってるわけじゃない。おいしいものを愛してるだけだ」


「ものは言いようだな」


「それより、大道芸も見たし、もうちょっとなんか食べようよ」


「……おまえな、食い意地がはってるわけじゃないって、どの口が言うんだ……」


 ニコラスの呆れ顔には構わず、ルーシェリアはぴょんと塀から飛び降りた。まだ夕暮れまではじゅうぶんあいだがある。つまりは食べる時間はたっぷりあるということだ。


「次はどれを食べようかな」


「もう好きなのをいくらでも食え……」


 かろやかな身のこなしで同じように降り立ったニコラスが、諦めたようにため息をついた。


******


「おや、お帰り。楽しかったかい?」


 リドリーのところに寄るというルーシェと途中で別れてひとりで店に戻ると、リーサが台所から出てきた。煮込み料理のいい匂いがしている。


「……疲れた」


「そりゃあお疲れ様。でも、楽しかったんだろ? 顔にそう書いてあるよ」


 子供の頃から自分の表情を読むのに長けている養母に反論できず、ニコラスは黙って上着を脱いだ。受け取ったリーサがポケットの中の拳銃を抜いて「これは持ってな」と渡してくる。そして上着を掛けに玄関へ戻っていった。


(まあ、楽しかったんだろうな)


 リーサに申しつけられたときにはなんで俺がそんなことをと思ったが、今日一日をルーシェと過ごしてみて、それがけっこう楽しかったことをニコラスは認めざるを得なかった。居間の座り心地のいい長椅子に腰を下ろし、苦笑を漏らす。


「結局、リーサの思う通りに転がされちまった、ってことか」


 ルーシェは、なんというか……生き生きとしていて、楽しそうで、とても可愛(かわい)かった。見るものすべてに目を輝かせ、それはおいしそうに食べ物をほおばり、愚にもつかないような大道芸に無邪気に笑い転げる。連れてきてやってよかったと素直に思えた。あれだけ喜ばれたら、連れてきた甲斐もあるというものだ。


(それに……確かに、14歳じゃねえな、あの身体は)


 一緒に塀の上に座っていたとき、笑いすぎたルーシェが危うく落ちそうになり、慌ててとっさに抱きとめたのだ。

 つかのまのことではあったけれど、自分の身体に押しつけたルーシェの身体は、確かに子供のものではなかった。細いけれど女性らしい曲線が感じられたというか。そして胸もそれなりにはあったような気がする。


(布でも巻いて隠してるんだろうが、さすがにあれだけ密着すれば何となく分かるよな……って、俺は何を考えてるんだ!?)


 ほっそりした腰に腕を巻きつけたときの感触までつい思い出してしまい、ニコラスはそれを打ち消そうとぶんぶんと頭を振った。

 妙齢の少女だと分かったうえでルーシェを見ると、なるほど彼女はえらく魅力的だ。ニコラスが好んでつき合ってきたような成熟した大人の女でこそないけれど、萌え出たばかりのみずみずしい若葉にも似た美しさが感じられる。


(まいったな。リーサが余計なことを言うもんだから、なんかこう、意識しちまうじゃないか……)


 今日さんざんからかわれた通り、父と娘ほども年が違うことは分かっている。普通に考えて恋愛の対象になるような相手ではなく、ニコラスにもこれまで特に若い女を好む性癖はなかった。だが。


「どうだい? ルーシェは可愛かっただろう?」


「うわっ」


 すぐそばにぬっと現れたリーサから、まるで心の中を読み取ったような言葉をかけられて、ニコラスは仰天しておかしな声を上げてしまった。


「いきなり真横でおかしなことを言ってくるんじゃねえよ!」


「おまえこそ何を動揺してるんだい。さては図星だね。ふふ、いい傾向さねえ」


「そんなんじゃねえから!」


 ()えるニコラスにリーサは生あたたかい視線を向け、「夕飯、食べてくだろう?」と何事もなかったように台所に戻っていった。



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